その翌朝、誠がPCを起動すると、広報部市場調査室の浜崎しほから電子メールが届いていた。
浜崎メール おはようございます、中村リーダー。昨日の討議も大変有意義でしたね。パネル分析を使って試作時間とコストを節約するなんて、まさに一石二鳥。当然私も調査には協力しますから、いい結果を期待したいですね。ところで1つご提案なのですが、実は、来月の社内報で“賢い時間の使い方”を特集することになっていまして、隣の広報室に提案したら、広報室長からさっそくプロジェクトチームへの取材の打診が来ました。(^_^)v
誠 え〜!
……と、思わず声が出てしまったのであわてて周囲を見回したが、特に誰も気に留めていなかったので、そのままメールの続きを読むことにした。
浜崎メール すでに東山部長にもご快諾を頂きましたし、星野“師匠”にもご登場頂く予定です。そういうわけで、ぜひ中村リーダーにもインタビューをお願いしたいと思います。明日の昼休みに広報室の取材班がお席まで伺いますので、30分ほどお付き合いください。それでは、心の準備をして待っていてくださいね〜。☆浜崎しほ☆
誠 何だか勝手に話が進んでるし……まったく、プロジェクトの結果も全然見えてないのに困ったな。それにしても、小栗といい社内報といい、みんな“時間”とか“効率”に敏感なんだなあ。まあ、東山部長も了解済みならこのインタビューを受けてもいいんだな。いずれ購買部長にも同じ説明をしなくちゃいけないわけだから、僕にとっても一石二鳥か……。
こうして何となく一人で納得した誠は、さっそく浜崎に社内報取材承諾の返信メールを送った後、星野にも事情を説明するメールを打ち、アドバイスを求めた。その日の夕方、星野から届いた返信には例によって説明用のファイルが添付されていた。
星野メール (前略)小栗さんの理解を得られたのはなによりでしたね。皆さんのプロジェクトは、ただでさえ日常業務が忙しい中に割り込ませているので、限りある時間をさらに圧迫します。しかし、ちょっと大げさかもしれませんが、ここでの貴重な時間投資こそが皆さんの将来の時間的余裕を生み出すことになります。無論、プロジェクト自体も出来る限り効率良く行うべきですが、ここで多少無理をしてでも後が楽になるよう、リーダーが采配することも重要なのです。先日「死の谷」と申し上げたとおり、ここが中村さんの踏ん張りどころだと思いますよ。
誠 確かに今が苦しくても、投げ出さないでいる意地みたいな気持ちが必要だよなあ。最近つくづく弱気は禁物だって、自分に言い聞かせてるし。でも自分を鼓舞するって、ホント疲れるよ。たかだか5人のメンバーだからいいようなものの、もし何百人もいたらどうなるんだろうか?
ふと誠は、10年後の自分が会社を切り盛りしている姿を想像し、その大変さを垣間見た気がした。
星野メール 添付資料(図)は、個人の時間の使い方と組織の動き方の着目点をまとめてみたものです。今度の社内報のインタビュー取材では、これも説明しようと考えています。
誠 あっ、そういや思い出した! そっか、前に本屋で見た『成果の出る!CFT』の著者って、師匠だったんだ。今度本を買って、直筆サインをもらおうっと。
星野がちょっとした有名人だったことに気がつき、意外なミーハーぶりを自覚した誠だが「もしかしたら、社内報で自分も少しは知られる存在になれるかも」と密かに期待したのだった。(第8話に続く)
小栗さんのようにプロジェクトのメンバーに抜擢されたにも関わらず、その決定に抵抗を示す場合には、きっと何らかの反対理由があります。それには個人的な事情もあるでしょうし、テーマや決め方など組織のやり方に疑問を持っている場合もあります。
もしそのメンバーの参画が必須ならば、本人の説得を試みることになりますが、このとき理屈だけではなく、相手の立場や感情面への配慮なども有効な説得手段となります。最初は真っ向から反論してきた人が、最終的には理解してくれて強い味方になることもあります。相手がどの点で反発しているのかを冷静に見極めながら対処しましょう。
ジェネックスパートナーズ取締役会長。ゼネラル・エレクトリック(GE)で、シックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルト(専従リーダー)として参加後、経営コンサルタントに転身。
2002年11月、お客様とともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から、お客様の成果実現のために企業変革を支援し、事業価値向上に貢献するプロフェッショナルファーム「ジェネックスパートナーズ」を設立。日本企業再生を目指して、企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』、『これまでのシックスシグマは忘れなさい』などがあり、中国、韓国、台湾等でも翻訳出版されている。
「誠」世代が“自立する=自ら考え正しく行動できる”ことが、今後の日本経済を支えるといっても過言ではありません。社会に出たビジネスパーソンとして自立するためのきっかけは誰にでも必ずありますから、そのチャンスに果敢にチャレンジしてほしいと思います。
しかしその際、気合と根性だけでは徒手空拳も同然。本連載でご紹介するようなビジネスリーダーとしての心構えと基本動作を身に付けておいたほうが無難でしょう。これらは難しく考えるのではなく、実際に試してみることが大切です。
本連載の主人公・誠は、おっちょこちょいではありますが、好奇心と向上心を持ち合わせたがんばり屋です。誠のように『天は自ら助くるものを助く』の精神でプラス思考で臨んだリーダーこそが、最後にはきっと生き残るのです。
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