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» 2008年10月06日 12時04分 UPDATE

それゆけ!カナモリさん:バナナダイエットは本当に効果があるの?――「観察者バイアス」を考える (1/3)

朝に常温の水を飲みながらバナナを1〜2本食べるという「バナナダイエット」が流行している。あまりに人気が出ているため、スーパーの店頭からバナナが消えてしまっているほどだ。しかし、本当にバナナダイエットは効果があるのだろうか。効果があると思ってしまう背景には、「観察者バイアス」があるからではないのかと筆者は推測する。

[金森努,GLOBIS.JP]
GLOBIS.JP

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年10月3日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


9月25日 トイレでうれしいことって何?パナソニック「アラウーノ」のイノベーション

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 スコットランド生まれの超イケメンミュージシャン、ベン・イエレンの甘く切ないボーカルがテレビから流れてきた。目をやると、ずらりと揃った便器が次々と汚れを洗い流していく映像が飛び込んでくる。パナソニックのトイレ「アラウーノ」のCMであった。

 アラウーノは「タンクレストイレ」という洗浄用の水タンクを持たないタイプの便器に分類される。タンクがない分だけ、あまり広いスペースが割かれることのないトイレの空間を有効利用でき、見た目もスッキリするということで、タンクレスはここ2〜3年で約3倍の伸びを示しているという。

 大きな伸びの背景には、各社の技術革新があったのも事実だ。タンクがないため、溜めておいた水で一気に洗浄することができない。戸建て住宅の2〜3階や、マンションの高層階などの水圧の低い住居には適していなかったが、メーカー各社は水の流れ方を工夫することによって弱点を克服したのである。さらに、その副次効果として、少ない水量で洗浄ができる=エコな便器というポジションを獲得することができたのだ。

 見た目スッキリ、トイレ広々。しかも水が節約できてエコにも貢献できる。たかがトイレだが、されどトイレということで、タンクレストイレの人気の秘密は分かる気がする。

 しかし、パナソニックのアラウーノはさらにもう一段、生活者のニーズに踏み込み、大胆な技術革新で飛び抜けた人気を獲得している。新築やリフォームの際に、顧客から「指名買い」されるというのだ。古い言葉でいえば「御不浄」たるトイレの便器は、これまで思い入れを持って選択される対象ではなかっただろう。それが今や、指名買いのポジションを獲得していというのだから、驚きだ。

 パナソニックは当然、陶器メーカーのように便器の専門ではない。それゆえにかえって、生活者のニーズに立ち返ってモノ作りをできたのではないだろうか。

 トイレの価値とは何だろうか。P.コトラーの「製品特性分析3層モデル」で考えてみよう。

 製品の中核たる価値、即ち、その製品を手に入れることで実現したいことは何かといえば、「用を足す」ことである(食事中だったらごめんなさい)。

 そして、その中核たる価値を実現するために求められる製品の「実態」は何かというと、「楽に用が足せる」ことと、「用を足した後の処理が速やかにできる」ということになるだろう。これは、便器の洋式化と水洗洗浄化で、旧来の和式トイレの問題点が一気に解決された要素だ。

 中核価値には直接影響を与えるものではないものの、あると嬉しい「付随機能」に、タンクレスが実現するような省スペースや見た目、水の節約ということになるのだろう。

 昨今、トイレだけに限らず、多くの製品がコモディティー化し、製品の「付随機能」の階層でしか差別化ができなくなってきている。例えば、PCや携帯電話などの「カラーバリエーション戦略」はその端的な例としてあげられる。

 トイレメーカーの戦いも例外ではない。タンクレストイレも、さらにカラーバリエーションなども豊富になってきている。さらに上級レベルでは、足下照明がついたり、座って用を足しながら音楽が聴ける機能まで装備されている。これらはいずれも「付随機能」だ。

 さて、アラウーノだ。大ヒットの原動力は、技術のイノベーションにある。今一度、「実態」のレベルで戦いを挑んだのだ。

 トイレの便器は陶器でできている。これは、人間が座った時の体重を何度も支えるために必要な強度を確保し、さらに水に強いという必要要素から、それ以外にないと思われていた素材だ。しかし、陶器には水垢がつきやすいという弱点がある。さらに水垢は埃と陶器の珪素と結びつき、便器の表面をデコボコにしてしまう。さらにそこに汚れがつく。それを落とすために、日々たゆまぬブラシがけ掃除が欠かせなくなるという、当たり前ではあるが、ふと考えればなんとも賽(さい)の河原的な日々の労働が強要されることになっているのだ。誰だってトイレ掃除なんてしたくない。

 「トイレがトイレをアラウーノ」。アラウーノのキャッチフレーズである。他社のキャッチフレーズである「おそうじラクラク」のレベルではない。勝手にトイレが掃除してくれるというのだ。

 その秘密は、もはや有名になってきたが、便器の素材にある。有機ガラス系の新素材を用いたという。つまり、「樹脂」だ。陶器に比べて樹脂は傷つきやすい。ブラシでこすれない。トイレ業界の固定観念で考えれば、“想定外”の素材。あくまで生活者のニーズを深堀していったことが、柔軟な発想を生んだのだろう。

 「ニーズ」とは、もはやカタカナ語になっているが、正しく定義するのであれば、「理想とする状態と現実のギャップ」である。トイレで考えれば、「トイレ掃除をしなくていいのが理想なのに、毎日毎日ブラシでごしごし掃除をしなくちゃならないの!」である。

 「ブラシでこすれないなら、こすらずに済むようにすればいいんじゃないか?」。発想の転換だ。汚れが付きにくい樹脂の特性を生かす。さらに、水流の泡を調節し、汚れ落ちを促進する。洗浄に家庭用の市販の中性洗剤を使えるようにする。固定化された発想では実現できない革新は、ひとえに生活者のニーズに立ち返ったことから誕生しているのである。

 ヒット商品が作れない。工夫のしどころがもうない。そんな声がよく聞こえる。確かに、前述の通り、多くの製品がコモデティー化した今日、革新的な大ヒットを作り出すことは容易ではない。しかし、まずは生活者のニーズに目を向け、耳を傾け、固定概念と常識にとらわれない革新に果断に取り組むことで、トイレの便器ですら、イノベーションが起こせるのだ。アラウーノに学ぶところは、大きい。

 →私がトイレで手を洗わない理由

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