金融マンの営業トークには気をつけよう! ラップ口座の“カラクリ” 山崎元の時事日想(2/2 ページ)

» 2008年10月02日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]
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顧客のコントロールする金融マン

 これだけ明らかな利益相反(利害の対立。この場合、顧客の利害と金融機関の利害が対立することを指す)があるのだから、経済常識としては、これを避けるのが当然だと思う。しかしお金の問題となると、他人を頼りたくなる気持ちがわいて来やすいのが困ったところだ。

 直木賞作家の奥田英朗氏は、ラップ口座について調子のいいセールスを受け、取り引きを始めてしまった。しかし、いったん始めてしまうとこれがなかなか解約しにくいといった心理については、10月2日号「週刊文春」に掲載されている「わがマネー敗戦」という体験記が、参考になるし、面白い。ラップ口座をご検討の方は、是非、読んでみてほしい。

 奥田氏は2007年の10月、取引銀行の担当者が連れてきた系列の証券会社の社員のセールスを受けて、5000万円をラップ口座に入金した。その後、サブプライムローン問題で株価が下がったこともあり、解約を考えたが、証券マンの契約継続に誘導する言葉に思いとどまった。そして9月19日現在、1100万円の損をしている(「積極型」でなく「バランス型」なのに損が大きい印象だ)という話の一部始終が書かれている。

 奥田氏は、途中で「金融市場から解放されたい」と思った。自分の判断による投資ならここで何らかのアクションを起こすところだが、解約すると損が確定するとか、年末には平均株価が2万円になっているかもしれないといった言葉を聞いて、解約できなかったのだという。現在もこのラップ口座を解約せずに、大きく減ったとはいえ大切な資産をリスクにさらしつつ、手数料を払い続けて、途方に暮れておられるようだ。

 金融マンは、嘘や断定的な判断(違法だ)を言わずに、かなりの程度、顧客をコントロールする技術を持っている。奥田氏の率直な手記から、その辺りの技術と顧客の側の心理を鑑賞してほしい。まことにお気の毒なことだが、奥田氏はお金の運用について、他人を頼ることの典型的な弊害をご経験されているところだ。

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