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» 2008年10月01日 20時00分 UPDATE

Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」:第6話 プロジェクトの「死の谷」から脱出せよ! (1/3)

キックオフから時間がたち、作業量が増えてくると、メンバーの物理的・精神的負担が増えてきます。プロジェクトが難関に差しかかったとき、メンバーの士気が下がらないようリーダーが心がけるべきこととは?

[眞木和俊,Business Media 誠]

この物語は……?

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 中村誠、32歳。静岡県出身、東京の中堅私立大学を卒業し、彼女いない歴3年。加工食品メーカー「アイティフーズ」に入社してちょうど10年目を迎える中堅社員です。誠が社会人として働いてきた10年間は、日本経済が停滞し“失われた10年”といわれた時代。年功序列制度が成果主義に代わり、後輩が入らず今までずっと下っ端として働いてきた誠も、そろそろ「中堅社員」と呼ばれる年代になってきました。

 これまでマネジャーとすら呼ばれたことがない誠は、ある日突然、社内プロジェクトのリーダーに登用されます。ビジネスリーダーの心構えとは? 部門横断型のプロジェクトを成功させるコツとは? 本連載では小説形式で、誠が奮闘しながら成長していく姿を描いていきます。

前回までのあらすじ

 部門横断プロジェクトが発足してから1カ月。右も左も分からなかった誠も、師匠と仰ぐコンサルタント、星野仙八のコーチングを受けながら、徐々に会議をきちんとドライブできるようになってきた。(登場人物一覧は記事の最後にあります)


 「高濃度な大豆イソフラボンを使った新製品を開発せよ」――キックオフミーティングから1カ月半が経過し、プロジェクトの活動内容も現状分析段階から仮説検証段階に移っていた。

 コンサルタント・星野仙八のコーチングを素直に受け止めてきたおかげで、中村誠は少しずつ着実にリーダーとしての成長を遂げつつあった。定例のチーム討議でも、最初の頃のようにメンバーから後ろ向きの発言が出ることはなくなったし、時には時間オーバーも辞さないほど議論が白熱する。その様子を見て安心したのか、星野もチーム討議に毎回は同席しなくなっていた。

 しかし、チームの行く先には次なる暗雲が待ち構えていた。

 新商品の消費者調査を実施するための調査内容20項目をリストアップしましたので、皆さんの専門分野と役割に合わせて分担してもらいます。分担した調査項目リストには、各自具体的なスケジュールを引いて、今週中に中村までメールで連絡をください。今日欠席した仲居さんには僕から連絡しておきます。なお次回は2週間後になりますので、そのときに宿題提出をよろしくお願いします。

 調査項目リストを参加者に配り、ミーティングは終了した。誠は1人ホワイトボードを消しながら、ホッと安心してひとりごちた。「最近メンバーの作業量が相当増えてきたけど、なんとかうまくまとめられたみたいだ。この調子なら、そろそろ師匠抜きでもやっていけるかな……」

 しかしその翌朝、プロジェクトオーナー※である東山部長に別室へ呼ばれた。東山の厳しい表情を見た途端、昨日の甘い考えはいっぺんに吹き飛んだ。

※プロジェクトオーナー…プロジェクトのテーマを設定し、結果責任を負う立場。部課長級がこれに当たるのが一般的。

東山 実は昨日の午後、小栗君の上司の購買部長から電話をもらってね、「この忙しいのに、おたくのリーダーはどれだけメンバーをこき使えば気が済むんだ! これ以上の参加協力は考えさせてもらう」と散々文句を言われてしまったんだ。君も承知のとおり、部長会でもプロジェクトメンバーの負荷は業務時間の2割以内、つまり週に1日以内で合意してもらっているので、こちらもあまり無理は言えない。

 ……申し訳ありません。もっとメンバーの時間負荷に配慮すればよかったんですが、どうしても分担した作業量が増えてしまいました。

東山 いや、一時的な負荷の増加は仕方のないことだろう。ところが困ったことに、商品販売部の山口君の上司からも先週相談があってね。どうやら山口君は、自分の業務をそっちのけでプロジェクト作業に没頭してしまっているそうだ。彼の担当業務が遅れがちだとぼやいていたよ。最近、彼の様子はどうなのかな?

 山口さんは数値分析が得意なので、僕もついいろいろな作業をお願いしてしまって……。彼もまた喜んで引き受けてくれるので、いつも頼りにしてしまっています。

東山 そうか。頼りがいのあるメンバーがいるのは素晴らしいことだが、このままでは工数※不足で肝心のプロジェクトが進まなくなってしまうかもしれない。もし改善できるなら、君の采配も変えたほうがいいだろう。星野さんとは連絡が取れるかい?

※工数(こうすう)……ある作業を行うのに必要な仕事量のことで、一般には「人数×作業時間」で表す。業界によっては「人工(にんく)」ともいう。

 もちろん、すぐにメールします。

 誠からのSOSメールを見た星野から、さっそく電話がかかってきた。

星野 チームの状況は大体分かりました。そのほかに中村さんの気になることはありませんか?

 そういえば、最近は定例討議に全員集まることができなくて、必ず1人は欠席か遅刻したりしています。そうすると、連絡が二度手間になってしまうんですよ。

星野 なるほどね。ここまでのお話から、きっと「死の谷」の兆しが現れていることは間違いないと思います。

 えっ? 死の何ですか?

星野 「死の谷」です。電話でご説明するのは難しいので、明後日にグループ本社に行くついでに伺いますよ。夕方頃、時間取れますか? それと見ておいてほしい資料があるので、メールで送っておきます。

 星野から誠に送られてきた資料は、死の谷を説明した1枚の絵だった(図)。誠は念のため、星野からのメールを東山にも転送しておいた。

ay_mkt01.gif プロジェクトの「死の谷」(クリックすると拡大)
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