コラム
» 2008年09月18日 09時00分 UPDATE

山崎元の時事日想:ビジネスで「女性特有の武器」を使うのは是か非か?

「男性に負けないように仕事をするよりも、女性の強みを生かした仕事スタイルを」そう提案する本、『<女性職>の時代』。その本質は、ドラッカーの古典『経営者の時代』にも通じ、男性にとっても参考になると筆者は考えるが、いかがだろうか?

[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


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 『<女性職>の時代――ソフトインテリジェンスの力』というタイトルの本が角川書店から出た。著者の中川美紀さんは、経営コンサルタントの波頭亮(はとうりょう)さんが主宰するXEED(エクシード)という経営戦略コンサルティングの会社で、アナリストとして活躍されている若い女性だ。

 ビジネスの場において、女性であることが有利な側面・特質を積極的に肯定して働くことで、女性はもっと活躍できるのではないかという提案をされている。「女性は積極的に女性らしく働く方がいいのではないか」という意見を、男性が持つこともある。しかし男性の立場でそう言うと、よほどうまく説明しないと、女性を差別しているように受け取られる。一方で女性の立場から、率直に発言してもらえると議論がしやすい。

 体力や、これに裏打ちされた集中力などで、男性の方が有利な職場・職種は厳然と存在する。全く問題がないわけではないが、「男同士」の方がスムーズなビジネスもある。こうした「男勝り」にならない限り挫折するというような職種で、大いに努力しながらもやっぱり挫折する女性は多い。彼女たちは、自分の特質をもっと有利に生かす道を選択した方がずっと幸せではないか、という問題意識を持つのは当然だろう。

女性の武器は「容姿」と「涙」、そして「心」

 「女性職」という新語とともに、著者の中川さんが強調するキーワードは「ソフトインテリジェンス」だ。詳しくは本を参照していただきたいが、筆者の理解では人間の心理、特に「感情」に柔軟かつ効果的に働きかけるスキルと、その背景にある知識や思考とを総称して「ソフトインテリジェンス」と名付けたようだ。これは単に相手の出方に合わせるだけでなく、相手が共感するような関係を自分の側から積極的に「仕掛けて」作るような具体的で積極的なスキルとして完成されたものでなくてはならない。旧来のインテリジェンスは論理や合理性が主軸なのに対し、ソフトインテリジェンスはそのハードなイメージとのコントラストを意識したネーミングだろう。

 確かにビジネスの状況にあって、女性が相手の心を効果的に和ませることが、しばしばある。残念ながら男性のビジネスマンが、同等の努力で同様の効果を得ることは難しい場合が多い。

 著者の指摘は、時に読み手が心配になるくらい、具体的かつ直接的だ。中川さんが女性のソフトインテリジェンスが生きる職種として挙げるのは、初等教育の教師、看護師、アナウンサー、広報、人事、営業、エグゼクティブセクレタリーなど。これらに加えて、しばしば女性の政治記者が取材対象に深く食い込んで情報を取ることに成功する例なども、決して皮肉としてではなく取り上げている。

 また、女性特有の武器を使うこともビジネスの目的にかなっていれば問題ではないはずだと述べている。女性の武器としては、「容姿」と「涙」の2つを挙げている。確かに、強力な武器だ。

 率直に言って、女性の誰もが、容姿や涙を武器となりうるほど有効に使えるわけではないので、女性読者の一部からは反発を買うかもしれないが、「武器として使えるものは有効に使え」というのは、厳しいビジネスの世界にあっては当然のこと。男性ビジネスマンの場合でも、女性の場合ほど単純ではないが、容姿の有利・不利はあるし(不細工な容姿が有利で、美形が不利な場合もある)、酒の強さだの、家柄だのを武器にする例がいくらもある(首相になるにも家柄が武器になるくらいだ)。

ドラッカーの『経営者の条件』よりも、はるかに読みやすい

 この本で著者が言っていることは、実は「自分にとっての成果が何なのかを明確に定義した上で」、「自分の『強み』を生かすことに集中すべきだ」という、若き日のピーター・ドラッカーの主張に正確に対応している。これらの要素に「時間の管理の重要性」を加えると、題材や語り口は全く違っていても、ドラッカーの古典『経営者の条件』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)の骨子ができあがる。ドラッカーの本もいい本だが、同じ原則を学ぶなら、女性読者にとっては『<女性職>の時代』の方がはるかに読みやすいだろう(男性読者でも、たぶんそうに違いない)。

 加えて、この本がいうソフトインテリジェンスは、男性が持っていても大いに武器になるような特質だ。ビジネスの相手の警戒感を解き、共感関係を作り、効率的に情報を取り、交渉をスムーズに運んだり、ということができるなら、男性ビジネスマンもより大きな成果を上げられるだろう。

 脳科学の世界でも、また、近年脳科学の成果を取り込みつつある経済学の世界でも、人間は論理ではなく、感情に基づいて動くのだという証拠が行動経済学と呼ばれる分野で積み上がりつつある。ソフトインテリジェンスは、ハードな論理の上でも重要だといえる。これを女性だけに独占させておくのは、いかにももったいない。

 そう考えて読み直すと、少なからず女性がうらやましく思えるので、なかなか悔しい1冊ではあるが、『<女性職>の時代』をあえて男性読者にお勧めしたい。

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