第4話 紛糾するチーム討議を上手に進める「グラウンドルール」とは?Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(2/3 ページ)

» 2008年09月17日 14時00分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

 困り果てている誠の情けないようすに、星野がようやく助け舟を出した。

星野 中村さん、それに皆さん、ちょっと休憩でもして頭を冷やしましょうか。そうですね、10分休みましょう。でも10分後に必ずここに戻ってきてください。

 部屋に残った星野は、すでにグロッキー気味の誠に向かって次のような指示を出した。

星野 いいですか、私がこれから言うことをそこのホワイトボードに箇条書きにしてください。

 はあ、“師匠”の言葉をホワイトボードに書けばいいんですね?

星野 そうです。まず「肩書きや立場にこだわらない」「他人の発言をさえぎらない、批判しない」「集合時間は厳守」「時間内に成果が出るよう積極的に協力する」「この部屋は安全なシェルターとする」。ほかにもありますが、今回はこのくらいでいいでしょう。

 書き終わりましたが、これは何かのおまじないでしょうか?

星野 これは討議に参加する人たちに守ってもらいたい「グラウンドルール」です。皆さんが戻ってきたら簡単に説明しましょう。

 休憩時間が終わり、メンバー全員が席に戻ったのを見計らって星野が話し始めた。

星野 ホワイトボードに皆さんがチーム討議の時に守る基本的な約束事、いわゆる「グラウンドルール」を書いてもらいました。読めば分かると思いますが、先ほどのような発言はお互いの立場をよく考えてからにしていただけるとうれしいですね。皆さんは1つのチームなんですから、もっと協力し合わないと困りますよ。

討議のグラウンドルール

  1. 肩書きや立場にこだわらない
  2. 他人の発言をさえぎらない、批判しない
  3. 集合時間は厳守
  4. 時間内に成果が出るよう積極的に協力する
  5. この部屋は安全なシェルターとする

 星野はそう言いながら、山口と仲居に目を向けた。2人とも気まずそうな顔で星野を見ていた。

浜崎 この最後にある「安全なシェルター」って、何のことですか?

星野 シェルターとは「守られた場所」という意味なので、たとえ討議中に感情的な対立や恥ずかしい失敗があっても、ここから外には持ち出さないでおく、というルールです。

浜崎 そうか、それなら思い切った提案や行動もできるわけですね!

星野 そのとおり。皆さんは社長から思い切ったチャレンジを期待されているんですよ。この際、今までのしがらみは忘れてプロジェクトに臨んでいただきたいですね。さあ中村さん、討議を再開してください。

 はい、次は浜崎さんから当社商品のブランドイメージと健康食品の市場動向について話してもらいます。

浜崎 分かりました。では、お手元に資料を配りますので、それを見ながら聞いてください。

 こういうと、浜崎は複数のグラフと図が入ったホチキス止めの資料を回した。

 (あっ、これは分かりやすい資料だな。グラフが多いし、説明ポイントも的確だ。さっき坂口が配った資料とは大違いだ。)

浜崎 皆さんもご承知のとおり、昨年私たちの会社はロゴなどのCI(コーポレート・アイデンティティー)を見直しました。創業から使ってきた「確かで安心」という手堅い老舗企業としてのイメージだけでなく、「健やかな美味」という商品ブランドも追加されました。そのおかげで少しずつ当社の健康食品商品の認知も上がってきています。こちらのグラフを見てください。

 浜崎は、所定の持ち時間15分ぴったりで説明を終えた。

 今の説明内容に対して質問はありますか? もしなければ、次は小栗さんにお願いしたかったんですけど、時間が足りなくなってしまいました。小栗さん、本当に申し訳ないんですが、次回に改めてお願いできますか?

小栗 しょうがないな、まったく。あきれてモノも言えないんだけど。こっちもせっかく資料を準備してきたので、勝手に配らせてもらうぞ。次回こそしっかりできなかったらメンバー降りるからな。その覚悟でいろよ、中村!

 う、うん。そうならないように頑張るよ。

星野仙八のアドバイス:「本題と関係ない話に夢中になり、会議が進まなくなるのを防ぐには?」

 会議に熱意をもって参加してくれるのはありがたいけれども、本題から外れた話に夢中になって時間が過ぎてしまったという経験はありませんか?

 こうした状況を回避するテクニックの1つに、「話題をパーキングロット(駐車場)に置く」という方法があります。発言者の好意を尊重し、時間があるとき改めて議論できるようホワイトボードなどの片隅に作った「パーキングロット」にその話題を書きとめておくのです。誰にでもすぐ使えるテクニックなので、ぜひお試しください。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.