ペットボトルは時代遅れ? 飲むべきか、飲まざるべきか、それが問題それゆけ!カナモリさん(3/3 ページ)

» 2008年09月12日 11時11分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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9月2日 「魚を食べよう!」(魚屋さんで買って)

 魚が好きだ。飼うのも、釣るのも、食べるのも。

 今回は「食べる」話である。

 9月1日付東京新聞の社説「魚屋さん減少 売り場の対話こそ食育」は秀逸だった。

 なかなか社説では取り上げないであろうこのテーマ、奥が深い。社説によると、経済産業省の2007年商業統計によると、全国の鮮魚小売店数は1万9709店と、この20年で半減し、調査開始以来初めて2万店を割った、消費者の8割近くが、魚介類をスーパーで買っている、ということだ。

 その影響はさらに深刻だ。効率重視の量販店では、パック詰めの解凍ものや、日持ちする塩漬け、干物が多くなる。同じような品ぞろえになりがちで、おろしたての近海魚が買えなくなるから、魚離れに拍車がかかり、魚屋さんの廃業も加速する――という悪循環も起きている、そして、国民1人1年当たりの生鮮魚介類購入量は、この40年で3割減った、という。

 5月20日に平成20年版の「水産白書」が発表されている。

 白書の中では、食糧自給率が40%前後で低迷している日本において、地産地消を進める上でも、食育の意味からも、近海物の海産物をもっと食べることが推奨されている。目標値は、現在の魚介類自給率50%台から60%台への回復だということだ。

 海外との競争で買い負けして日本に入ってこなくなる海産資源。輸入頼みでは将来は何とも心許ない。しかし、そうした提唱も売りの現場が崩壊しては画餅に終わる。

 我々、生活者にできることは微力ながら、鮮魚店を「買い支える」ことではないだろうか。東京新聞の社説は次のように記している。店先で対話ができる魚屋さんは、最も身近な「食育」の現場として、これから特に貴重な存在になるはずだ。

 スーパーによっては魚を姿のまま並べて、頼めばさばいてくれる所もある。しかし、大型店の品揃えには限界がある。たまに鮮魚店に足を運ぶと、久々に見る魚の姿も少なくない。「食育」ということならば、数多くの魚の姿を見せることも重要だろう。

 「権助魚」という落語がある。

 店の奥方に旦那の浮気調査を依頼された奉公人の権助。旦那に金で懐柔され、「御茶屋で遊び、船で魚を網で捕った」と報告するように言われる。証拠として魚屋で「網取り魚を」と購入するが、買ったのが助惣鱈(すけそうだら)、鰊(にしん)、茹で蛸(ゆでだこ)、目刺し、蒲鉾(かまぼこ)。奥方から「こんな魚が隅田川で捕れるか」と、あっという間に看破される。……この後の言い訳が面白いのだが。実はこの噺(はなし)、「子供たちは、海の中を魚の切り身や、目刺し、かまぼこが泳いでいると思い込んでいる」という都市伝説の原型になっているという説もあるようだ。

 だが、落語のとぼけた話や都市伝説もこのままだと現実のものになりかねない。

 魚の名前や姿を知る。さばき方や調理方法を学ぶ。味を覚える。とりもなおさず、これは民族としての「ナレッジの伝承」なのだ。組織において、ナレッジが伝承されないことは脆弱化が進むことを意味する。それは国や民族でも同じことなのだろう。

 ナレッジの伝承は、まず、「見える化」することが大事なのだが、残念ながら味覚は完全には「見える化」できない。個人から個人へ伝承される「暗黙知」に近いものである。だとすれば、その伝承者が最も重要であり、その要は「街の魚屋さん」だったりする。

 2007年問題では、団塊世代の定年退職による社内のナレッジ喪失を回避しようと、各企業とも、定年延長や再雇用など、必死の対策を打った。この「魚屋さん減少問題」に対しても、生活者の買い支えだけでなく、何らかの打ち手が必要なのだと思う。

 漁業の現場でも、燃料高で出漁の危機に瀕している。政府はようやく援助に乗り出すようだ。捕る現場だけでなく、食卓に届ける現場にも目を向けるべきだろう。無駄な税金を使うことには賛成しかねるが、「水産白書」での地産地消の提唱を、絵に描いた餅にしないためにも、もっと知恵を使うべき時なのだ。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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