第3話 師匠、登場Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(3/4 ページ)

» 2008年09月10日 12時00分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

 再び、見知らぬ人物に全員の視線が集中した。誠も姿勢を正し、改めて星野の顔を見る。星野仙八――どこかで聞き覚えのある名前だ。

星野 分かりました。では改めまして、ジェイネックスの星野仙八と申します。本日はキックオフの場に同席させていただき、ありがとうございます。小石川社長からのご指名なので、一言お話させていただきます。いつも思うのですが、物事最初が肝心ですよね。中村さん、今回の準備はさぞ大変だったでしょうね?

 突然、話をふられた誠は、何と答えたらいいのか分からず言葉に詰まった。

 は、はあ……。

星野 今日が初顔合わせだったのですよね? だとしたら、仕方なかったかもしれませんが、そばで見ていてちょっとハラハラするようなやり取りには、ファシリテーターとして“介入”したほうがいいですよ。あなたがリーダーで進行役なのですから。

 ファシリテーター? 介入??

 誠にはその言葉の意味は分からなかったが、なぜか不思議と興味をそそられた。

星野 それに、山口さんにあっさりと不得意作業を丸投げする姿勢もいかがなものでしょう? きっと小栗さんは、その他人任せな態度が気になったのですよね?

 星野は涼しげな眼で、半分ふてくされている感じの小栗の方を見た。小栗はけげんそうにうなずいた。

 (えっ? この人、他人の気持ちが読めるのかな……?)

仲居 いきなりズバズバとおっしゃいますけど、ここでちょっと見たぐらいでそこまで言い切れるものなんですか?

星野 いや、別に決め付けているわけじゃありませんよ、仲居さん。でも、過去の新製品導入で何度も泣かされてきたあなたのご経験も聞くことができました。

 仲居は、ちょっとびっくりしたように星野を見上げた。

浜崎 星野先生、どうしてみんなの様子が分かるんですか? ちなみに私はどうなんでしょうか?

星野 あなたはとても優秀な方ですよ、浜崎さん。それに自分でちゃんと考えてお話しされますしね。あ、それから、私のこと“先生”って呼ぶのはナシにしてください。ここは学校じゃありませんし、私は他人に何かを教えられるような大そうな人物じゃないので、“さん”付けで結構です。小石川社長もご協力願いますよ。

小石川 いやぁ星野先生、ついつい。私は古い人間なもんですから……。

 (なんか、社長も交えて、この和んでる雰囲気はなんだろう? そうだよな、こんな風に緊張がほぐれれば、みんなで話がしやすいはずだ。これがファシリテーターっていうのかな?)

星野仙八のアドバイス:「ファシリテーターとしての立ち居振る舞いとは?」

 ファシリテーターという言葉は耳慣れないかもしれませんが、単なる司会役という意味ではありません。ぴったりと当てはまる日本語はありませんが、「うまく意見を引き出す役」というイメージです。

 もちろん参加者に意見を言わせるだけではなく、「時間内に具体的な成果を導く」「参加者のコンセンサスをとる」といったことにも気を配っていただくことになります。ファシリテーターとしての立ち居振る舞いを身に付けることが、チームリーダーとしての基本動作であることはいうまでもありません。


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