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» 2008年09月05日 09時28分 UPDATE

神尾寿の時事日想:新型ハイブリッド車「インサイト」は売れる? “プリウス市場”に挑むホンダ

10月2日に開幕するパリモーターショーに、新型ハイブリッド「インサイト」のコンセプト車を出展するホンダ。これまでハイブリッド車でつまずいてきたホンダだが、新型車でトヨタの「プリウス」を追随することができるのだろうか?

[神尾寿,Business Media 誠]

 10月2日から始まるパリモーターショーに向けて、本田技研工業が新型ハイブリッド専用車「インサイト」のコンセプトモデルを発表した。インサイトは5人乗りのコンパクトな5ドアハッチバック。パワートレインはホンダ独自のもので、システムの小型化と制御ユニットやバッテリーの荷室下に配置する新たなプラットフォームの採用により、優れたスペースユーティリティを実現する模様だ。新型インサイトは2009年春から日米欧で発売され、年間20万台の販売を計画している。

 ここでクルマに詳しい読者ならば、「おやっ?」と思ったかもしれない。

 そう、ホンダの「インサイト」は、初代プリウス発売から2年遅れとなる1999年に発売されたハイブリッド専用車の名称であり、今回発表された新型インサイトは2代目へのフルモデルチェンジになる。ただ、先代インサイトの印象が薄いため、事実上は「ホンダの新しいハイブリッド専用車」のように市場の目には映るだろう。

yd_honda.jpg 新型車「インサイト」は5人乗りの5ドアハッチバック(出典:本田技研工業)

米国市場で堅調だが、日本でのイメージ作りで失敗

 ハイブリッドカーというとトヨタ自動車の印象が強いが、実はホンダも早期に量産市販化を実現しており、北米市場ではトヨタと並ぶ「ハイブリッドカーの2大メーカー」という位置付けである。筆者も何度かホンダのハイブリッドカーに乗っているが、燃費がいいだけでなく、“キビキビと、とてもよく走る”と好印象を持っている。しかし、日本でいまひとつ「ホンダ=ハイブリッド」と見られていないのは、同社がイメージ戦略で失敗したからだ。

 まず、最初のハイブリッドカーであった「初代インサイト」でつまずいた。しかし、これは“エンジニアリング的に”ではない。なにしろ初代インサイトは、当時1リッター=35キロメートルという超低燃費を実現していたのだ。失敗したのは、マーケティングやブランド構築においてである。

 初代インサイトはコンパクトなハッチバッククーペで2人乗り。しかもリアのホイールハウスがボディに隠れる独特なデザインをしていた。一方の初代プリウスは、スペースユーティリティを最重要視した5人乗りのコンパクトセダンで、専用デザインながら初代インサイトのような奇抜さはなかった。ハイブリッドであることを除けば「普通のクルマ」に見えたのだ。初代プリウスはハイブリッドで低燃費というだけでなく、コンパクトセダンとして使い勝手がよく、市場に抵抗感なく受け入れられていった。一方で初代インサイトは、そのあまりに特異的なフォルムと“2人乗り”という制限から日本市場ではあまり売れず、一種のカルトカーになってしまったのだ。

 初代インサイトで苦戦する一方で、ホンダは2001年からコンパクトセダンの「シビック・ハイブリッド」に注力。こちらは5人乗り、かつオーソドックスなセダンのデザインということから、北米市場を中心にハイブリッドカー市場の構築に成功した。2005年には2代目シビック・ハイブリッドにフルモデルチェンジ。2006年に初代インサイトの生産が終了すると、事実上、ホンダのハイブリッドカーはシビック・ハイブリッドが主軸になった。米国では、2代目プリウスほどではないが、この2代目シビック・ハイブリッドの人気は高く、ハイブリッドカーの代名詞になっている。

 しかし、このシビック・ハイブリッド、日本市場での存在感は希薄である。ライバルであるトヨタの2代目プリウスが、欧州車っぽさと先進性を見事に調和させた5ドア・5人乗りの専用デザイン・専用ボディであるのに対して、シビック・ハイブリッドはノーマルのシビックと同じ4ドア・5人乗りのコンパクトセダン。悪くはないが、未来を感じさせる力もない。奇抜に過ぎた専用デザインの初代インサイトに対して、今度はあまりに保守的に過ぎたのだ。性能的にはプリウスに負けてはいないのだが、見た目と名前の両方で、“ハイブリッド”である清新さや特別感が打ち出せなかった。

専用デザイン・専用ボディで、再びプリウスに挑戦

 「日本でのプリウスは、シンボル性だけで売れている」

 ホンダの関係者と話をすると、そのような嘆息がよく出てくる。確かにプリウスは、その性能以上にブランドイメージで売れている。5人乗りのコンパクトカーとして使い勝手は悪くなく、しかも専用デザイン・専用ボディの効果によって、「ハイブリッドカーといえば、プリウス」という象徴的なイメージが確立されているのだ。実際、トヨタはレクサスやクラウン、ハリアー、エスティマなど他車種にもハイブリッドカーを用意しているが、そちらはプリウスのように「モデルチェンジ直前にもかかわらず、納車まで2カ月待ち」(トヨタ車販売店)といった人気ぶりにはなっていない。

 今回、ホンダが発表した新型「インサイト」は、まさにこういったシンボリックな“プリウス市場”に斬り込むものだ。使い勝手とデザイン性を両立させた5人乗り・5ドアハッチバックを採用し、再びハイブリッドカーの専用名である“インサイト”を復活。プリウスとの正面決戦に臨む。

 一方で、トヨタのプリウスも、2009年にフルモデルチェンジする。こちらは新たにプラグイン・ハイブリッド機構を搭載し、近距離ならば電気自動車のように乗れる。また現行モデルと同じく、5ドアハッチバックの専用デザインを与えられる模様だ。

 ハイブリッドカー市場で、プリウスの“ひとり勝ち”が続くのか、それともホンダの新型インサイトが待ったをかけるのか。来春のハイブリッドカー決戦は要注目である。

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