クビと辞職、どちらがトク? 外資系金融のリストラについて考える新連載スタート! 山崎元の時事日想(2/2 ページ)

» 2008年09月04日 00時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]
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警告を受けた場合、3つのパターンに分かれる

 日本人はもちろん、外国人でも「クビ」と言われるのは辛い。言う方も相当に嫌なものだ。外資系金融で社員を辞めさせる場合は、後からのトラブルを避けるためにも、辞めさせたい3カ月くらい前に警告(「ウォーニング」と呼ぶ)を発することが多い。上司が発するウォーニングの内容はあらまし、以下のような感じだ。

 「君の最近のパフォーマンス(業績)にはがっかりしている。このまま2、3カ月の間に顕著な改善がなければ、私は君に辛い通告をしなければならないかもしれない。これは、一友人として言うのだが、この会社にとどまって君のキャリアの価値を落とすよりも、別の機会があれば、それに賭ける方がいいのではないか」(英語で言われることが多い)

 ウォーニングを受けると、(1)それで発憤して本当に業績を改善するごくまれなケースと、(2)あわてて転職活動に力を入れる多数のケースと、(3)呆然として何もしないケースの3つに分かれる。

 ここで面白いのは、どう考えてもダメそうな(3)の選択肢が「案外悪くない」場合が多々あることだ。

 正式なウォーニング、あるいはそれらしきものを受けたが、その後何も変わらず勤め続ける人は少なからずいる。多額のボーナスはもちろん期待できないが、すぐにクビになるわけではなく、生き残って、そのうちにまた追い風が吹いてくる、というようなケースである。

 発憤して仕事をしたものの結局ダメだったという場合の落胆や徒労感、慌てた転職活動の結果の悪さ、といったことを考えると、淡々とその会社での運命に身を委ねていたことが結果的に正解だったというケースが相当数ある。

 「会社は利益を極大化するために、貢献していない社員を直ちに切るのではないか」と思われるかもしれない。しかし、会社や上司には、また別の都合がある。

 1つには、会社としてもトラブルの可能性や評判を考えると、会社都合の解雇はできればやりたくない。法律を厳密に読むと会社側からの解雇が正当化される条件は案外厳しいし、無理に解雇して元社員と裁判を争うことは会社にとってプラスではない。下手をすると、会社の事情をよく知っていて、会社に執念深い恨みを持ったヒマ人を相手にしなければならないのだ。

 もう1つの理由は、にわかには納得できないかもしれない。上司にとっては、“その気になればいつでもクビにできる部下の存在は役に立つから”という理由だ。

 外資系の会社では人の採用に関して本社の方針が重要な影響を持つ。通常、部門別に「ヘッドカウント」と称して、社員の人数枠が与えられている。平時なら、役に立ちそうな人を追加採用することは、本社に説明すると問題なく通るのだが、例えばサブプライムローン問題で本社の業績が怪しい現在のような状況では、全社ないしは多くの部門で「ヘッドカウント」が凍結されている場合が多い。

 しかし、状況が悪いときでも、欲しい人材は見つかるかもしれない。また、業界の状況が悪い時ほど、他社から有能な人材を引き抜くことが容易になる。

 実はこの時に役立つのが、いざとなれば辞めてもらえる部下なのだ(本人に本当の事情は説明しないことが多いが)。彼をクビにして、雇いたい人物を雇えばいい。

 それに、コストカットでしか利益を増やせない場合に、連続増益を演出するためには、余剰人員を一気に切ってはもったいない。

 こうした「予備」の意味合いで、当面の貢献が低い部下を抱えるマネージャーが存在する。ダメな部下は直ぐにクビにするのが最善だと単純に信じているマネージャーは、はっきり言うと「まだ若い!」

外資系金融マンは「鈍感力」を発揮せよ!

 筆者は幸い、「クビ」を告げたことも、告げられたこともないが(会社がつぶれたことはある)、クビの事情はいろいろだ。外資系金融の世渡りでは、自分の周囲の空気の変化を敏感に読む「敏感力」と、少々ヤバそうでも動じない「鈍感力」の両方が要求される。

 日本の外資系金融のリストラは、これからが本番だろう。撤退や大規模な縮小があるのではないかと噂される外資系金融機関が現在複数ある。「嵐の前の静けさ」といってもいいかもしれない。

 最後に、「どうも自分はヤバいらしい」とお感じの若手外資系金融マンの読者にアドバイスしておこう。自分から気を回して、先のあてもないのに辞める必要はない。会社都合で解雇されるまで粘る方がプラスの場合が多いと思う。辛いとは思うが、現実を直視しつつ「鈍感力」の方を発揮せよ。ただし、いざという時のための転職の可能性については、情報収集を怠ってはいけない。これは、当然の「リスク管理」だ。会社と上司に十分誠意を尽くして働いているなら、仕事の結果が悪くても、相手は、将来あなたのことを悪くは言わない場合がほとんどだ。

 それでも、将来、元部下を悪く言うような上司は、生き馬の目を抜く外資系金融といえどもよほどの悪人だろう。また同僚や業界内でも、嫌われていることが多い。

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