連載
» 2008年08月28日 17時06分 UPDATE

郷好文の“うふふ”マーケティング:トラックとお手伝いを時間貸し――“レントラ便”に乗ってみた (2/2)

[郷好文,Business Media 誠]
前のページへ 1|2       

なぜハーツに? なぜ鳥人間?

 「東京理科大の“鳥人間サークル”から始まったんです」と山口社長。

 “レントラ便”が誕生したきっかけは3年ほど前、同大学神楽坂キャンパスから川越の河川敷までの“鳥人間”飛行機の運送依頼だった。鳥人間とは、空気力学と人間の熱意で滑空する人力飛行機だ。同好会費用で組立部材を河川敷まで運送したいという。なぜか受注して、なぜかその後も不定期に発注がある。

 なぜハーツに? なぜ鳥人間? はっきりした理由は分からないまま、山口社長は仮説を立てた。「学生だからトラックの運転に慣れていない」「制作物を壊さない運送が素人では難しい」「なるべく安くあげたいが、運送業者の料金は不明朗」……ここに運送新ビジネスのヒントがあった。

どんな業界でも掘りさげることができる

 だがまっすぐレントラ便にたどり着いたわけではない。飛び立つまでには長い助走があった。トラックだから“道路陥没”もあれば“道路封鎖”、“タイヤ摩耗”にも悩まされたのだろうか。文字通り平たんな道のりではなかった。

 山口社長は19歳で函館から上京、西濃運輸で1年、佐川急便で3年働いた。キツい仕事で有名な佐川急便での3年勤務は、同期入社で最後まで生き残った1人だった。だが、佐川急便事件が起こり、変わり果ててしまった会社を見て退職。しばらくは運送以外の仕事もしたが、自分にできるのは運送だと気付き、先輩が起業した運送会社に参加した。大田区界隈で1日300キロメートル、18時間働いた日もあった。

 だがあるモメ事が起きたことから、「いっそオレも起業を」と軽トラ1台で会社を立ち上げた。25歳だった。持ち前の努力で事業展開し、大口取引も得て順風だった。

 だが、その大口取引がアダになった。売上の8割を占めていた会社から取引停止をくらったのだ。売上はゼロに近づき、自殺も考えた。しかし、取引先の社長に直談判して気迫で生き延びた。この時、「1社依存、下請けじゃダメだ」と痛感した。

 そんなある日、お付き合いで行った東京中小企業同友会の講演で、師となる人に出会った。サヤカ(基盤分割装置製造メーカー)の猿渡盛之社長だ。猿渡社長の「会社をつぶさないためには、自社ブランドを持たないとダメ」との言葉が、山口社長に衝撃を与えた。自社ブランドとは脱下請けを意味する。考えた末にロゴを作り、引越し業を始めた。手応えはあったが引越しは繁忙期と閑散期が極端で、他社との違いもアピールし切れなかった。そこでまた猿渡社長の言葉を思い出した。

 「どんな業界でも掘り下げることができる」

 掘り下げた結果当たったのが“レントラ便”。飛べない鳥人間という1つの案件から、新しい運送サービスを発案したのだ。

 “トラックの運転+手伝い=明朗会計/時間チャージ”というシステム。運搬作業の事前の見積もりと時間単価設定にノウハウを蓄積した。コンセプトを固めて2005年暮れ、中小企業庁の経営革新計画に認定申請し採択され、開発を進めた。正式なスタートは2006年6月、以来毎月売上を伸ばし、2008年7月は前年同月比220%を突破した。

ah_PICT0445.jpg オフィス前で山口社長

 ドライバーは茶髪やピアス、髭は禁止。お客さんは頻繁に運送会社に頼むわけではないところが多い。某モード学園からこの秋、新宿から代々木体育館まで往復便の卒業制作を受注した。“ガルウィング”でドアが開く4トントラックを貸し出し、遊園地のマジシャンイベントやコンサート、検品代行も廃棄物処理もする。

ah_PICT0441.jpg レントラ便ドライバーさん

5年で20倍の事業規模をめざして

 将来の目標は? と山口社長に聞くと「稼働台数1000台」という数字を挙げた。現在は50台だから5年で20倍の計算。そのためにレントラ便のネットワークを全国に広げる。見積もりの標準化をさらに進め、Web予約システムの開発も着々と行う。

 成長するとヨコ槍も入る。某競合業界から「違法行為」と脅しの電話もかかるという。もちろん適法だから、これは言いがかりだ。サービスの真似もされるので、ビジネスモデル特許も申請した。

 「“汚い”“キツい”“長時間労働”の業界を変えたい」と山口社長は話す。ガソリン価格高騰、料金値上げ、道交法改正、駐車違反摘発……と悪いニュースばかりの運送業界。それをニーズと時代変化にマッチしたレントラ便で変えたい。夏取材の汗がとてもすがすがしく感じた。

関連キーワード

ガソリン | 起業 | ビジネスモデル


前のページへ 1|2       

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ

ITmedia 総力特集