クモが走り、地価舞い上がる?――副都心線開業で、沿線価値は上がるのか大出裕之の「まちと住まいにまつわるコラム」(2/2 ページ)

» 2008年08月18日 07時00分 公開
[大出裕之,Business Media 誠]
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沿線価値と不動産は切っても切れない

 さて鉄道の話はこれくらいにして、ここからは“まちと住まい”的な話題に入ろう。

 地価と鉄道路線の関係は、不動産流通にとって重要だし、また鉄道会社の不動産開発という話題は、これまた無視することができない重要なマーケットファクターである。そして多くの人は、住まいを探す際に沿線別に探すものなのだ(参照リンク)

 「まち」という観点では、例えば副都心線の開業で百貨店の勢力図が変わるのでは? という話題が記憶に新しい。「池袋が通過駅になってしまうと西武&東武百貨店が苦戦を強いられ、新宿三丁目にある伊勢丹や、渋谷にある各デパートが有利になるのでは?」といったことを考えるわけだ。とはいえ、例えば通勤定期を支給されている人は6カ月定期が多いだろう。人の流れが大きく変わるのは半年〜1年くらいかかると考えたほうがいいのではないだろうか。

 →副都心線開業1カ月、人の流れはどうなった?

 →池袋の百貨店が“臨戦態勢”、副都心線開通を機に呉越同舟

 また新線が開通したことで、沿線価値にも、大きな変化が出るものと思われる。副都心線の場合は何といっても、2012年には東京急行電鉄東横線・横浜高速鉄道みなとみらい線への相互直通運転が決定しているのが大きい。東急線沿線は非常に人気が高いが、さらに東急優位になるのだろうか。ちなみに2019年に、東急東横線日吉駅経由で相鉄へも乗り入れるという計画もあるそうだ。

 ちなみに今から開業予定の駅もある。既に場所を確保しているのは「東池袋駅」。乗降客数の増加によって開業するらしい。この駅が開業した場合は、既に存在する有楽町線の東池袋駅と連絡することになるそうなので、サンシャインシティ近隣のエリアの人たちは非常に気になることだろう。

副都心線開通で、地価は上がったのか

 さてここでは実際に、沿線価値を調べてみた。調査につかったのは、国土交通省の土地総合情報ライブラリー(参照リンク)。例えば東京都であれば、1970年以降2008年の最新公示地価までを確認することができる。

 今回の話題は地下鉄の新線開通と地価の関係なので、副都心線の新駅近くの公示地価と、特に変化のない鉄道路線のとある駅近エリアの地価の変化を比較してみたい。またこのサイトはそのままだと少々見づらいので、調べたものを表にまとめてみた。

路線 住所 最寄り駅 地目 2008年公示地価 2001年公示地価 上昇率※
副都心線 東京都渋谷区千駄ケ谷3−4−24 北参道駅より約200m 第2種中高層住居専用地域 143万0000(円/m2) 82万0000(円/m2) 174%
副都心線 東京都豊島区雑司が谷3−20−10 雑司が谷駅より約50m 第1種中高層住居専用地域 54万0000(円/m2) 47万5000(円/m2) 114%
副都心線 東京都新宿区西早稲田2−19−2 西早稲田駅より約100m 第1種住居地域 91万4000(円/m2) 80万0000(円/m2) 114%
京王線 東京都渋谷区初台2−8−6 初台駅より約600m 第1種住居地域 88万0000(円/m2) 59万6000(円/m2) 148%
※上昇率は、小数点以下を四捨五入して計算

 いかがだろうか。副都心線の新駅が開業した上、もともと人気の千駄ヶ谷の上昇率は174%と非常に高くなっている。雑司が谷、西早稲田という(大人気というわけではない)地域でも、それなりに地価は上がっている。新線開通の好影響は少なからずあると言っていいだろう。ちなみに公示地価が最も直接的に影響するのは、固定資産税である。

 もちろん地価というのはいろいろな要素が複合しているので、単に新線効果だけでは測れない。実際、上の表の初台(京王線初台駅からもちょっと遠い)のように、新線の駅近エリアよりも上昇率が高いところもたくさんある。

 とはいえ新線開通が人の心理に及ぼす影響を考えると、市場価格(公示地価ではなく、実際に契約したときの価格)に影響することは確かだ。実際、不動産取引の現場で、「新線の駅ができましたからねえ、ますます便利に……」といったトークが展開されてきたのは目に見えるようだ。

賃貸の人も、影響は大アリ

 ところでこの記事を読んでいる方の中に、「土地なんて買わないから、そんなの関係ない!」と思っている方はいないだろうか?

 家を他人に貸す大家さんは、その物件を取得する時、公示地価を横目で見ながら金額交渉をする。しかもその後の固定資産税は、公示地価をもとに割り出される。大家さんはそれらを元に家賃を算出する※。そう、新線開通と賃貸には、実は大いに関係があるのだ。

※ちなみにHOME'S不動産投資では物件ごとの収益シミュレーションができるので、興味がある方は試してみてほしい。

 要するに、地価が高い場所の家賃は当然高いということ。自分が住んでいる街、住みたい街の家賃の相場を知りたい、といった場合には、家賃相場が随時更新されるサービス(関連リンク)を確認すればすぐに分かる。さらに詳しく研究したい方は、国交省のサイトをじっくり読んでみてほしい。

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