電車の中のスキマ時間。何をして過ごすだろうか。車内で乗客を見回してみれば、多くの人が、携帯電話の液晶画面をにらんでいることも少なくない。一方、乗客の中で雑誌を読んでいる人はどれくらいいるだろうか。
現在、日本雑誌協会が主催する「雑誌愛読月間」の期間中である。(7月21日〜8月20日)。電車の車内吊りポスターには、アイドルの「アッキーナ」こと南明奈が浴衣姿も麗しく、「雑誌にお作法はございません」というコピーに花を添えている。
「お作法はない」とは、「いついかなる時にでも、気軽に好きな読み方で楽しんでほしい」ということだろう。しかし、残念なことに車内に雑誌を広げている人は数えるほどしかいない。
インターネット調査会社のマイボイスコムによる「雑誌」に関する継続調査の結果がリリースされた。
雑誌の販売実績が落ち、メディアとしての衰退が取りざたされる中、意外ときちんと有料購読している人が多い反面、やはりフリーペーパーが、閲読誌ジャンルやよく読む雑誌のランキングで大きな勢力を占めていることが分かる。
その中で気になるのが、閲読するシーンだ。複数回答で、「自宅でくつろいでいる時」が67.2%なのに対し、「電車やバスなどの移動中」は18.9%しかいない。昔なら、電車やバスなどの移動中は雑誌閲読の定番的シーンだったはずだ。移動の合間にキオスクでちょいと買って、車内で広げる。読み終わり、会社に着いたら誰かに渡す。そんな読み方。
しかし、自身の日常を考えても、ご多分に漏れず、ケータイの液晶画面とにらめっこしていることの方が多い。雑誌を小脇に抱えて携帯するなどということも、ずいぶん少なくなった。車内の読み物としての地位は、雑誌はケータイにその座を奪われてしまったと言ってもいいだろう。
それも、同じくインターネット調査会社のネットエイジアの「ケータイ依存度調査」の結果を見ると無理からぬことではあるように思う。
ケータイを「持ち歩いていないと不安」全体で3/4超える、特別な用事なくとも「ケータイを利用・触れる」80%……自らも身に覚えのあることとはいえ、このように「依存状況」を列挙されると確かに雑誌のつけいる隙はもはやないこととわかる。
では、雑誌に生き延びる道はないのだろうか。
雑誌を読むシーンでは、「自宅でくつろいでいる時」は、他のシーンに比べると倍以上のスコアを占めている。つまり、雑誌は今日、「スキマ時間を埋めるツール」ではなくなっているということではないだろうか。
くつろいでいる時にどのように誌面に接するだろうか。時間があるのでしっかり読み込む。もしくは、写真を眺めてパラパラとめくる。そんな読み方ではないだろうか。いずれもケータイの画面サイズには適さない。
ケータイに依存する人々。雑誌は読まれるシーンも変化している。ケータイ依存はもはや後戻りするとは思えない。だとすれば、それに抗するのではなく、独自の利用のされ方を確立することが雑誌離れを食い止める手立てではないだろうか。
「雑誌にお作法はございません」と、生活者に委ねるだけでなく、「ゆったりとした時間を雑誌とお過ごしください」といった提案があってもいいだろう。
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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