環境問題を学ぶ“切り札”はカードゲーム(1/2 ページ)

» 2008年08月11日 15時45分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
マイアース(基本パッケージは陸・川・海の3種類)

 「シリアスゲーム」というジャンルをご存じだろうか。それは、プレイヤーに何かを学習させることを目的としたゲームのことで、近年人気の「脳トレ」もそのジャンルに分類できる。電車の運転を体験できる「電車でGO!」や、市長として都市開発を行う「シムシティ」などもシリアスゲームの1つと数えていいだろう。

 8月8日に発売されたトレーディングカードゲーム※「マイアース(My Earth)」は、地球温暖化問題を学べるシリアスゲームだ。主に小中学生をターゲットとした対戦型のカードゲームで、2人のプレイヤーが「青い地球(地球守護)プレイヤー」と、「赤い地球(環境破壊)プレイヤー」とに分かれて戦う。

※トレーディングカードゲーム……各プレイヤーが集めたカードを自由に組み合わせて数十枚のセットを作り、2人以上で対戦を行うゲームのこと

 青い地球プレイヤーは生き物カード、赤い地球プレイヤーは地球温暖化カードを使って相手を攻撃する。共通に使える「人間の活動」カードをうまく利用できるかどうかが勝負のカギ。青い地球プレイヤーが勝てば地球は守られ、赤い地球プレイヤーが勝てば地球は滅ぶということになる。対戦を通じて、地球温暖化にどのような現象が関わっているか、人の活動が環境にどう影響を与えているかが学べるような仕組みになっている。

 価格は40枚入りの基本パッケージ(40枚入り)が1785円。拡張パック(10枚入り)が357円。カードは全部で71種類。書店の丸善店頭で並べられる他、アマゾンでも注文できる。

 マイアースを製作したのは慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)政策・メディア研究科修士課程1年の岡崎雄太氏と、東京大学新領域創成科学研究科修士課程1年の横山一樹氏。遊びながら環境問題について学んでほしいという気持ちからこのゲームを開発したという。

カードだと具体的な事象を示せる

慶應義塾大学SFC政策・メディア研究科修士課程1年の岡崎雄太氏。長野県茅野市出身

――マイアースのアイデアはどのようにして生まれたのですか?

岡崎 ゲームが好きなことと、環境に興味があったことが原点にあります。

 中学生の頃、「Magic: The Gathering(マジック:ザ・ギャザリング、以下MTG)」というトレーディングカードゲームにはまっていました。所属していたハンドボール部の仲間で遊んでいて、1999年には横浜で開かれた世界大会にも出場しました。

 環境問題については「地球を守ろう」というあいまいなメッセージをうさん臭く感じ、「伝え方を変えたい」という問題意識を持っていました。そんなとき、養老孟司さんの『いちばん大事なこと―養老教授の環境論』(集英社新書)で「一人一人が、何を問題としどう考えるのかが大事」と書かれていたのに感銘を受けました。

 カードゲームだと具体的な事象を個別のカードに示すことができます。「地球が危ない」ではなく「サンゴが危ない」というようにリアルな何かに問題意識を持たせられるということからマイアースの発想が生まれました。

――もともと何かを作りたいと思って大学に入学したのですか?

岡崎 SFCに入学したのはやりたいことを実現できる場所だと聞いたからです。最初は「環境問題のとらえ方を変える」という意識で行動していました。1年生の時(2004年)には、環境の授業を履修したり、環境サークルで活動していたりしました。ただ、環境サークルの活動の意義に疑問を抱く事もありました。文化祭の飲食店で使用する容器を貸し出して、終わったら回収して洗うといったことをやっていたのですが、そんな手間を引き受けていても、周りには何も伝わらない。これでいいのかと思って、1年経たずに辞めることにしました。

 そこで、成果をしっかりと評価するビジネスという分野でなんとか環境問題を解決できないだろうかと思って、2年生の時(2005年)に学生起業を支援するゼミに参加しました。そのゼミの合宿でブレストしたときに、環境問題とトレーディングカードゲームを掛け合わせるアイデアを思いついたのです。

 MTGでは英語で解説が書かれているカードを集めていたのですが、それがきっかけで英語を積極的に学ぶようになり、英検1級に合格するまでになりました。また、高校で米国に留学したときに、MTGをやっていた同級生とコミュニケーションをとれた思い出もあります。MTGが英語やコミュニケーションを学べるツールになれたのなら、「環境問題を学べるツールもカードゲームで作れるのではないか」と考えたのです。

――どのように作っていったのですか?

岡崎 まずは、Excelにカードの名前や強さの数値を入力していくことから始めました。そして、大学のプリンタで印刷して、はさみで切って、友達をつかまえてテストプレイしてもらう。SFCでは24時間使えるPCがあるので助かりました。

 しかし、ゼミで「教材なのか遊びなのかはっきりしないと、ブレイクスルーは生まれない」と指摘されて半年ぐらい迷うことになります。新しい遊びをつくる、という意味で、オンラインゲームやフラッシュゲームを開発していた時期もあります。

ビジネス・アイデア・コンテストでの優勝が転機に

東京大学新領域創成科学研究科修士課程1年の横山一樹氏。岡崎氏とはバスケサークルで出会った

――結局カードゲームになったのはなぜですか?

岡崎 現在一緒に起業することとなった横山一樹氏が、3年生(2006年)の夏に学内の「慶應ビジネスアイデアコンテスト」にマイアースの原型となるカードゲームでエントリしたんです。そうしたら大賞を取ってしまった。長野県に帰省していた時に携帯電話で結果を聞いて、驚きましたね。それで自信が持つことができたのです。ゼミでのアドバイスは正しいかもしれないが、自分たちの歩んでいる道は決して間違ってはいないぞということです。

 大賞をとった後は、本気になりました。今までは学生仲間にしか遊んでもらっていませんでした。でもそれではいけないと思って、大学周辺の児童館などに飛び込みでお願いして、メインターゲットとなる子どもに遊んでもらうことにしました。

――行動力がありますね。

岡崎 そうして子どもたちに遊んでもらってはいたのですが、自分たち学生だけで高いクオリティの製品を作ることは難しいと感じていたので、一緒にやってくれる企業を探していました。すると、先輩から大日本印刷(以下DNP)がSFCにおいて「アントレプレナー概論」という寄付講座を提供していると教えてもらったのです。

 担当者に連絡をとってプレゼンをすると、「支援するに値する」と評価されました。DNPが掲げる「創発」というスローガンに、このカードゲームが合致するとされたようです。DNPでは社内ベンチャー制度があるのですが、そこで教育系のアイデアを出していた社員さんと一緒に活動することになり、DNP五反田ビル11階にある創発フォーラムというフロアの一区画を使わせてもらえるようになりました。

DNP五反田ビル11階の創発フォーラム。壁のホワイトボードにアイデアを書いていく

 次にやったことは、事業として成り立つかどうかを調査することです。エコプロダクツ展やアースデイなどの環境イベントに出品して、プレイヤーの様子を観察したり、アンケートをとったりしていました。中学校や高校でも授業に導入していただいたのですが、マイアースが無かったら一生カードゲームに触れる機会がなさそうな人たちにも遊んでもらえるのは、とても刺激的な経験でしたね。

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