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» 2008年08月08日 09時41分 UPDATE

神尾寿の時事日想:躍進する交通IC系電子マネー――次なる注目は“レールサイド圏外”

レールサイドを軸に“都市部の電子マネー”として定着した交通IC系電子マネー。普及数の拡大と利用率の向上、どちらをとっても交通IC系電子マネーの成長性は高いだろう。しかしレールサイドを離れると使い勝手が悪くなる現状で、今後はどのような展開が期待されるのだろうか?

[神尾寿,Business Media 誠]

 交通IC系電子マネーの好調が鮮明になった。既報のとおり、SuicaとPASMOの7月の電子マネー利用件数が3271万件と、初めて3000万件を超えたとJR東日本などが発表した。実際に首都圏で生活すれば分かるが、駅ナカはもちろん、駅周辺でもSuica/PASMOの利用シーンは完全に定着。特に朝夕の通勤時間帯は、駅ナカや駅周辺のコンビニエンスストアでSuica/PASMO電子マネーを使って買い物をする人はとても多い。東京のライフスタイルに、SuicaやPASMOは完全に溶けこんでいる印象だ。

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 交通IC系の電子マネーは、「電車・バスに乗るため」と第一義の目的がはっきりしているため、チャージ(入金)の必然性があり、“かざす”という利用シーンが日常化しやすい。さらに駅と駅周辺、いわゆる「レールサイド」の多くのユーザーがいるため、加盟店も対応しやすく、利用促進もしやすいという特長がある。西日本鉄道のnimocaの例で分かるとおり、駅周辺の店舗と“街ぐるみ”で連携することで、早期から利用を活性化。一部のリテラシーの高いユーザーだけでなく、女性層も含めた幅広い利用者層にキャズム(深い溝)を超えて普及させることもできる。電子マネーの利用活性化には、ユーザーと加盟店双方の“密度”が重要であるが、レールサイドを軸とする交通IC系電子マネーは、その点でとても有利な立場にある。

相互利用化の促進が「追い風」に

 さらに2007年から急速に進む「相互利用化」の流れが、交通IC系電子マネーの強い追い風になっている。この牽引役になっているのが、相互利用に積極的な「Suica」だ。すでにJR西日本の「ICOCA」と電子マネーの相互利用化を実現しているほか、これから始まるJR北海道の「Kitaca」や、西日本鉄道のnimocaを筆頭とする九州北部の交通IC系電子マネーとも相互利用化を進める方針を打ち出している。

 JR東日本がリーダーシップを取り、相互利用を通じて「Suica型電子マネー」がデファクトスタンダード的(事実上の標準)に広がることが、交通IC系電子マネー全体の認知度向上と活性化につながっている。先のコラムでも述べたが、各地の鉄道会社が推進する交通IC系電子マネーがレールサイドを軸に“都市部の電子マネー”として定着し、相互利用を通じてそれらが全国で都市間のネットワークを構築することになるだろう。利用率の高さという点では「nanaco」など流通系電子マネーの強さもあるものの、都市部で汎用的に使える電子マネーの主役はSuica/PASMOを筆頭とする交通IC系に落ち着きそうである。

“レールサイドの外”でも交通系ICは戦えるか

 普及数の拡大と利用率の向上。どちらをとっても、交通IC系電子マネーは有利な立場にあり、今後の成長可能性は高い。FeliCaを活用するサービスやビジネスの可能性で考えれば、今後は「どのように交通ICと連携するか」が重要なテーマになるだろう。

 一方で、交通IC系電子マネーにはいまだ超えられない課題もある。それは駅から離れた場所で著しく利便性が低下し、利用率が高くできないという点だ。交通IC系電子マネーはチャージや残額確認の拠点を「駅」としており、一部店舗でレジでのチャージなどに対応するものの、駅から離れた場所でのチャージ環境の整備が進んでいない。ひとたびレールサイドの「圏外」に出てしまえば、チャージいらずのiD・QUICPayなどポストペイ型電子マネーの方が使い勝手がよいという面もある。

 今後どこまで“レールサイドの外”まで展開するかは、各交通IC系電子マネーの拡大戦略にもよるが、ユーザーの視座に立てばこれだけ普及した交通IC系のカードが「駅から離れても、どこでも使える」のが望ましい。1つの解決策はモバイルSuicaのようにおサイフケータイに対応し、オンラインで場所を問わずチャージできる仕組みを使うことだが、より多くのユーザーの利便性を高める上ではカード型のソリューションも必要だろう。その中でプリペイド型の交通IC系電子マネーと、ポストペイ型電子マネーの2つを共存させるという方法も考えられる。

 今年3月には、トヨタファイナンスがJR東日本と提携し、Viewカード機能を搭載したQUICPay内蔵の提携クレジットカード「TOYOTA TS CUBIC VIEW CARD」の提供を開始している。このカードにはSuica機能は内蔵していないので、1枚のカードで交通ICとポストペイ型の2つの電子マネーは利用できない。しかし、8月4日には長崎の交通ICである「長崎スマートカード」と、ポストペイ型電子マネー「iD」を1枚のクレジットカードにまとめた「COCO COLOR CARD(ココカラーカード)」が発表されている。例えば、Suica/PASMOなど電子マネー付きの交通IC機能と、QUICPayなどポストペイ型電子マネーが1枚にまとまったクレジットカードが登場すれば、レールサイドはもちろん、そこから離れてもポストペイで残額不足を気にせず使えるので、かなり使い勝手がよい1枚になるのではないだろうか。

 交通ICが都市部で「標準的な電子マネー」になった今だからこそ、駅から離れても1枚のカードで何らかの電子マネーが使える、補完的なソリューションを検討してほしいところである。

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