誰もが認める美人より、磨けば光る子を探せ――山崎元VS. 山口揚平の投資対談(前編)分散投資特集(1/2 ページ)

» 2008年07月31日 07時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

プロフィール

山崎元(やまざき・はじめ)

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。住友信託銀行など12回の転職を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえ資産運用分野が専門。

雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『お金をふやす本当の常識』(日本経済新聞社)など。

山口揚平(やまぐち・ようへい)

早稲田大学政治経済学部卒。トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイト トーマツ コンサルティング、アビームM&Aコンサルティング シニア・ヴァイス・プレジデントを経て現職。

主な著書に『株M&A大化け相場に乗り遅れるな!』日本実業出版社 2005年)、『なぜか日本人が知らなかった新しい株の本』(ランダムハウス講談社 2005年)、『世界を変える会社の作り方』(2008年、PDF)など。Business Media 誠では2007年4月〜12月まで連載「時事日想」を執筆


 かつてM&Aのコンサルタントとして、日本の経済史上に残る案件に携わった山口揚平氏。一方、転職を繰り返しながらも一貫して投資の世界に関わってきた山崎元氏。30代の山口氏と、今年50歳になる山崎氏。世代の違う2人はそれぞれ、投資の世界をどのように見てきたのだろうか? すでに投資を始めているが資産を殖やせない、投資はしたいがなかなか決断できない、そんなビジネスパーソンに向けて、2人からのメッセージを3回にわたってお届けする。

 →誰もが認める美人より、磨けば光る子を探せ――山崎元VS. 山口揚平の投資対談(前編)

 →投資をする際の2つのアプローチとは?――山崎元 VS. 山口揚平の投資対談(中編)

会社の価値と株価の“差”を見ることが重要

山口揚平氏

――まずは自己紹介をお願いします。

山口揚平(以下、山口) 私は約8年間に渡って、M&Aの仕事に携わってきました。トーマツコンサルティングやアーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティングで、某巨大複合企業や巨大小売業の再建を手掛けてきましたが、私自身は“金融資本主義”というものを信じていません。「ポスト金融資本主義を考える必要があるのではないのか?」と考え仕事を辞め、個人投資家を支援するため「シェアーズ」を設立しました。具体的には正しい投資の知識や正確な情報、新しい投資のアイデアを個人投資家と分かち合い、自らが的確な投資判断ができるようにお手伝いをしています。

山崎元(以下、山崎) 私は大学を卒業して三菱商事に就職し、その後「ファンドマネージャーになりたい」と思い、野村投信に転職しました。その後、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研、そして今の楽天証券経済研究所で働いています。とはいってもUFJ総研からは、会社で働きながら経済評論家の仕事もしています。具体的には経済関係の文章を書いたり、講演をしたり、投資家教育のコンサルティングしたり、友人と会社を設立したり、仕事を“ポートフォリオ化”(分散)しています。

 転職を12回してきましたが、ファンドマネージャーとして長く働いていたこともあって、株式市場や為替のマーケットには大変興味があります。今年で50歳になり、半世紀生きてきましたが運用の仕事には一貫して興味を持ってきました。しかし、いろいろなことに興味があるので「これからどうしようかな?」とも考えています(笑)。

――2人とも投資に関係する仕事をしていますが、投資をはじめたきっかけは何でしょうか?

山崎 三菱商事で働いていたときに為替のディーリングをしていました。商社に就職して為替を希望した人間は珍しかったのですが、とにかく相場を扱う仕事がしたかったのです。実は大学時代に将棋部に所属していて、ゲームという感覚で相場を捉えていたのかもしれません。

 しかしファンドマネージャーの仕事をしたくて、野村投信に転職しました。そこで株を買ったことが、人生で初めての投資経験になります。ちなみに最初に買った銘柄は住友銀行(現三井住友銀行)。当時、株を購入するにあたって上司からは「ハイテク株にするのか、それとも内需か?」と聞かれましたが、バブル経済を予測して「金融機関の株価が上がるのではないか」と分析しました。これを聞いた上司は「長くファンドマネージャーをしてきたけど、最初に銀行株を買ったのは君だけ。ひょっとしてお金に苦労してきたのか?」と言われました(笑)。

――自分のお金で投資をされたことはありませんか?

山崎元氏

山崎 ファンドマネージャーという仕事をしていたため、自分のお金で投資をした経験はあまりありません。テレビなどでマーケットのことをコメントする機会もあったので、職業倫理的に株を買うことをしなかったのです。「自分は人のお金を運用するプロであって、自分のお金は運用しないんだ」と考えていました。

 しかしUFJ総研に転職したとき、ネット証券が設立されて、個人の株式売買が増えてきました。「個人投資家はどのような気持ちで、(ネットで)株を売買しているのか?」その部分を知りたかったため、2年半ほど運用してみました。基本的に私にとって、投資とは人のためにするもので、投資歴の長い人とは違った感覚を持っています。

――山口さんが最初に買った銘柄は何ですか?

山口 最初に買ったのは純粋に楽しもうと思って、モスバーガーでした。買った理由は「優待券がもらえるから」という、いわゆる個人投資家らしい発想。しかしモスバーガー(モスフードサービス)の優待券は使い切れず、その後株価は下がりました。当たり前のことかもしれませんが、「いい会社を買うだけではダメ。いい会社を安く買わないと株で儲けることはできない」ということを自分のお金を使って学びました。

 その後はM&Aの仕事を手掛けていたので、投資対象(会社)の価値を正確に把握するために、デューデリジェンス※をしていました。そこで会社の価値というものを理解し、その会社の株価と価値の“差”に着目しました。振り返れば最初は「いい会社かどうか」しか見えていなかったのですが、M&Aの仕事によって投資の視野が広がり、株価と会社の価値の差を見つけて投資を行っていったのです。

※デューデリジェンス:M&Aの案件で、対象となる企業や事業の実態を把握するため、問題点などを調査すること。

山崎 「いい会社」と「投資をするのにいい会社」とはかなり違ってきます。“美人投票”※の話ではありませんが、人がAという株をどのように見ているのか、ということも大切ですが、その株または会社がどのように変化していることに注意しなければいけません。だから誰から見ても美しいという、美人のピーク時に投資をすることは危険性もあるので、注意する必要があるのです。

※美人投票:投資家の多くが「美しい(投資をしたい)」と感じる銘柄に、投資をすることが有効だという投資手法。

 むしろ地味な会社かもしれませんが、ポジティブな変化が期待できればいいのです。そういう意味では株は美人投票だといいますが、誰もが認める美人を買うことよりも、地味だけど気立てがいいとか、あか抜けないけど化粧をすると美しくなるとか、価格と価値のギャップあるいは、価値や人気の変化の可能性を見抜くことが大切となってくるでしょう。

 話は少しそれますが、私は12回も転職をしているため、人から「飽きやすい性格なのですね?」とよく言われます(笑)。しかし投資……マーケットの世界で「飽きた」と感じたことはありません。日々新しい変化があって、飽きないゲームだなあと思っています。

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