病院もホスピタリティの時代――日本初、電子カルテ連動のFeliCa診察券神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年07月30日 14時39分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 都心部にありながら、閑静で瀟洒な雰囲気がそこかしこに漂う東京・広尾。緑も豊かな有栖川公園のすぐ近くに、そのクリニックは位置している。といっても、その入り口に病院らしい緊張感や入りにくさはない。落ち着いた色調の建物と控えめな玄関は、居心地のよいカフェのようだ。

 パークサイド広尾レディスクリニックは、女性のためのトータルヘルスをケアし、“女性専門のかかりつけ医”を目指すクリニックだ。婦人科健康相談や妊婦検診をはじめ、女性特有の分野について幅広く専門性のある診療を行っている。

 7月1日、このパークサイド広尾レディスクリニックにおいて、日本初となる電子カルテ連動型のFeliCa診察券が導入された。基本ソリューションとしてフェリカポケットマーケティングの「FeliCaポケット」(参照記事)が採用され、8月1日からはおサイフケータイへの対応も行うという。

 そこで今日の時事日想は特別編として、パークサイド広尾レディスクリニックの事例から、医療分野におけるFeliCaの可能性についてレポートする。

パークサイド広尾レディスクリニックは、東京・広尾にある女性向けクリニック(左)。同クリニック事務長の棚町友光氏(右)

更新に合わせて、3000枚の診察券を切り替え

シンプルで質感の高いデザインが印象的なFeliCa診察券。デザインを重視し、30パターン以上の候補から選ばれた

 すべての診察券をFeliCa対応の新システムへ。このプロジェクトはパークサイド広尾レディスクリニック側が企画し、「FeliCaポケットを使いたい」とフェリカポケットマーケティングに問い合わせたところからスタートしたという。

 「(FeliCaに切り替える以前は)磁気ストライプ式のプラスチックカードを診察券として使っていたのですが、ちょうどその更新期が近づいていました。当クリニックでは、最新の電子情報サービスを構築するとともに、イメージアップも図りたかった。そのような理由から、FeliCaの採用に向けて動き出しました」(パークサイド広尾レディスクリニック事務長の棚町友光氏)

 旧来の磁気ストライプ式カードの発行枚数は、アクティブなものだけでも約3000枚ほど。これをすべてFeliCa型の新システムに移行すれば、当然ながら導入コストがかかる。しかし、パークサイド広尾レディスクリニックの狙いは、単なる「診察券の代替」ではなく、さらに総合的な電子患者情報サービスを構築するところにあった。そのため“かざすだけ”というFeliCaの使いやすさ・イメージのよさだけでなく、機能的な拡張性も重視したという。

 「電子カルテシステムについては3年前に導入していたのですが、新たな診察券はこれと連動する形にしたかったのです。またセキュリティや個人情報保護という観点からも、患者の皆さまに安心していただける最新のシステムにしたかった。

 また、コストという点ですけれども、初期投資は確かに(磁気ストライプ式の)更新よりかかりますが、FeliCaは広く普及している技術ですので、設備の追加や拡張といった点で見れば(コスト的に)有利な点が多いと考えています」(棚町氏)

 パークサイド広尾レディスクリニックの採用したFeliCa診察券は、同クリニックが構築した独自の医療サービス「PIECe (ピース、Patient Information Electric Card Systemの略)」に組み込まれている。PIECeは患者ひとりひとりの情報を管理しており、院内に保存されている電子カルテとも連動。FeliCa診察券は患者の識別・認証する鍵として用いられている。

 「セキュリティという観点では、FeliCa診察券の中に保存されているのはID情報だけです。これをクリニック内の受付や、診察段階で(リーダー/ライターで)認証することで、サーバー側からひとりひとりの個人情報を呼び出します。磁気ストライプ型の診察券(の運用)では、カード内に名前や生年月日などの個人情報を保存するケースが多いのですが、PIECeではFeliCa診察券を個人認証の鍵として使うことで、個人情報が漏洩しない仕組みにしています」(棚町氏)

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