経験効果を発揮するしかない!? ミスタードーナツとモスバーガーの「MOSDO!」それゆけ!カナモリさん(1/3 ページ)

» 2008年07月29日 19時10分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年7月25日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


7月10日 掃除機バトル・ダイソンの牙城に合わせ技で挑む三洋電機

 携帯電話やPCのデジタルもの、自動車などに比べると、地味な家電はあまり注目が集まらないプロダクトかもしれない。しかし、よく見てみるとなかなか面白い戦いが展開されている。

 掃除が好きだ。……ちょっとウソをついてしまった。正確には、掃除は大嫌いだが、「掃除機」が好きなのだ。特に、あるプロダクトに出会ってから。

 ダイソンのサイクロン掃除機。

ダイソンのサイクロン掃除機、アップライトタイプ

 サイクロン方式とは、チリやゴミを掃除機が空気と一緒に巻き込んで吸い込み、空気を本体内部で旋回して遠心力でゴミと空気を分離・集じんするタイプを指す。ダイソンはその方式のナンバーワンメーカーといって間違いないだろう。

 サイクロン方式は、紙パック方式と比べて「大量に集じんしても吸引力が落ちない」という触れ込みであったが、実際には吸引力不足のトラブルが相次いだ。事実2年ほど前、国民生活センターには多数の苦情が寄せられており、同センターから各メーカーに改善要求が出ていた。

 しかし、当時からダイソンは「吸引力が落ちない唯一の掃除機」というキャッチフレーズ通りの性能を誇っていた。

 筆者がダイソンの掃除機が好きなのは、その吸引力に引かれてだけのことではない。プロダクトとしてのデザイン完成度の高さと、何より、透明の集じんケースの中で豪快にチリとゴミが回転分離されていく様が見えるのが好きなのだ。効果が実感できるというのは極めて重要なことだ。E・M・ロジャースの「イノベーション普及要件」でも、「効果が目に見えて実感できること」が挙げられているぐらいだ。

 さて、そんなサイクロン掃除機のナンバーワンブランドに戦いを挑んだのが、 三洋電機コンシューマエレクトロニクス。空間清浄サイクロン「airsis(エアシス)」を2008年9月1日に発売するという。

三洋電機のairsis(エアシス)

 同社のWebサイトによると、何と床も空気も掃除し、さらに二酸化炭素(CO2)の排出量を従来機種よりも約半分に削減するクリーナーだという。これは凄まじい“合わせ技”だ。

 「CO2排出量半減」はエコな世の中への訴求ポイントとなるが、それだけではない。掃除機がけが終わった後、お部屋の空気を清浄するモードを設けました。例えば子供部屋など、空気の汚れの気になる場所へ移動させ、スポット的に使うことも可能ですという。掃除機であって、空気清浄機でもあるわけだ。

 さらに、クリーナーの排気による床面ゴミの舞い上げを抑え、本体が0.3マイクロメートル以上の微粒子をキャッチしキレイな排気を実現。床面だけの平面掃除から、空気までお掃除する3次元掃除スタイルへというのも大きな売りのポイントなのだろう。

 ということで、この「エアシス」のポジショニングとUSP(ユニーク・セールス・ポイント)は、「床のチリやゴミだけ気にしていてもダメ。空気もきれいにするのが掃除です」ということだろう。

 さて、迎え撃つダイソンは、上記の同社Webサイトの動画で展開しているように、各社の集じん率を比較し、自社とは比べものにならないという、直球勝負で、まさに王者の戦略である。王者に対し、差別化を挑むチャレンジャー。まさに戦い方の王道といえる展開だ。

 ただ、1つだけ気になるのが価格面。ほかの日本メーカーのサイクロン掃除機の実売価格はおよそ3万円台半ば。ダイソンの価格は実売でエントリーモデルが4万円弱。ハイエンドモデルが6万円台半ば。エアシスは実売最安値で5万円強で、中心価格帯は7万円台半ば。王者ダイソンの上をいく価格である。

 価格の設定には、自社のコストから、いくら利益を積み上げていくかという、「原価志向」、顧客が「いくらなら買ってもいい」と考えてくれるかから推測する「カスタマーバリュー志向」、競合価格を考慮して設定する「競合志向」の3つの観点が必要とされている。つまり、おなじみの3C(Company・Customer・Competitor)の観点だ。

 エアシスは「空気まで掃除」をコンセプトにした多様な付加価値で、カスタマーバリューを高め、競合となるダイソンにも十分戦いが挑めるとふんでの価格設定となったのだろう。その価格が市場に受け入れられるか、非常に興味のあるところだ。

 掃除機という、ちょっと地味なプロダクトであるが、よく見ると熱い戦いが繰り広げられているのである。ミクロ視点での競合戦もウォッチしてみることをオススメしたい。

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