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» 2008年07月23日 17時24分 UPDATE

財務で読む気になる数字:ローリスク・ハイリターンという“おいしい話”はない? 恋愛行動とファイナンス理論 (1/2)

ある生徒はこう話した。「買い物はすぐに決断できるのですが、結婚は踏み切れなくて……。でもファイナンスを勉強して、その理由が分かりました」と。この発言にどんな意味が含まれているのだろうか? 生徒の恋愛行動をファイナンス理論で分析してみると……?

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斎藤忠久の「財務で読む気になる数字」とは?

グロービス・マネジメント・スクールそしてグロービス経営大学院で教鞭を執る、斎藤忠久氏による新連載。ファイナンスの観点から話題になったニュースを独自の視点で読み解くコラム。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2007年10月11日に掲載されたものです。斎藤氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 「先生、私、買い物はすぐに決断できるのですが、結婚となるとなかなか踏み切れないのです。でも、ファイナンスを勉強してその理由が分かりました」

 クラス後の懇親会で、ある受講生が発した、この発言の意味を今回は探ってみよう。

結婚=投資と考えると意思決定はNPV法に

 恋愛行動を、ファイナンス理論で説明することは可能か。まず、「結婚」という行動に深く関わると考えられるのが、ファイナンス理論における投資の意思決定方法としてのNPV法(正味現在価値法)である。

 この方法では、投資対象が将来、生み出すキャッシュフローを現在価値に割り戻し、そこからその資産を購入するのに必要な初期投資額を差し引いた残額(これをNPV:正味現在価値という)を見る。これがプラスであれば投資を実施し、マイナスであれば投資を見送る。数式で表すと、

 NPV = Σ CFn/(1+r)^n −初期投資額

となる。

 この投資判断の方法を、個人として物を購入する際の判断に応用すると、どうなるだろうか。例えば、120万円の値札のついたロレックスの機械式クロノグラフ腕時計を購入する場合を考えてみる。腕時計を購入する場合の費用や効用は、

(1)時刻を告げる、時計としての本来的な機能から生じる効用

(2)趣味の品として複雑系の機械式腕時計を所有することによる満足感から生じる効用

(3)その時計の維持にかかる費用

(4)将来、中古品として売却した場合に得られる金額(残存価値)

と想定できる。

 上記4項目のそれぞれについて見てみよう。例えば(2)の満足感は、機械式腕時計フリークの人にとっては、極めて大きい数値を示すものと考えられるが、そのような趣味を持たない人にとってはゼロに近い数値となる。ただし、どちらの人にとっても、(1)の時計としての効用と、(4)の残存価値は同程度と考えられる。ちなみに(3)については、こうした機械式の腕時計は、何年かに1回はオーバーホールに出す必要があり、そのたびにかなりの額の出費を覚悟せねばならない。

 以上を踏まえると、フリークである人にとっては、現在価値である「Σ CFn/(1+r)^n」が初期投資額である120万円を上回るであろうから、その時計を購入しようという判断に到達する可能性が高い。一方、そのような趣味を持たない人にとっては、「Σ CFn/(1+r)^n」は、「時刻を確認するだけの価値」しかない上に、メンテナンス費用が発生することから、120万円のロレックスに対する投資 NPVはマイナスとなる可能性が高く、従って、購入はしないだろう。

 さて、話題を結婚に戻そう。結婚の際の判断は、「伴侶を得るという投資行動によって、将来、獲得する追加的な“キャッシュフロー”の現在価値から、結婚にかかわる初期費用を差し引いた額」がプラスとなるかマイナスとなるか――だと言えよう。

 伴侶を得ること(ファイナンス的に言えば「伴侶をM&Aする」だろうか)によって、まず、金銭もしくは効用のプラス面から考察すれば、(1)それぞれ1人で生活していた時に比べて、住居費、食費などを削減できる(いわゆる「規模の経済が効く」状態となる)、(2)1人でなく2人で生活することにより、精神的な充足感を得られることが、主に挙げられる。

 一方、マイナス面では、(3)結婚が破綻するリスクにかかわるコストがかかる(これは、「離婚する場合の精神的・金銭的な負担×離婚に至る確率」で計算できる)。

 そして初期費用として、(4)結婚式と新婚旅行の費用および所帯を持つためのそのほかの付帯的費用が考えられる。

 以上を整理すると、

 結婚のNPV = Σ〔((1)+(2)-(3))n/(1+r)^n〕−(4)

という式ができあがる。

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