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» 2008年07月18日 14時18分 UPDATE

神尾寿の時事日想:原油価格に翻弄される「クルマ社会の未来」

高騰を続けていた原油価格がここ数日急落している。消費者にとってはありがたいことだが、それは自動車業界から危機感を失わせ、変革へのエネルギーを弱めてしまうことにつながるのではないだろうか。

[神尾寿,Business Media 誠]

 歴史的な高騰から一転、原油価格が続落している。

 日本経済新聞ほかの報道によると、17日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は3営業日連続で下落。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の8月物は、前日比5.31ドル安の1バレル129.29ドルで終えた。7月11日に一時147.27ドル、終値で145.08ドルという史上最高値を記録してから、わずか1週間で原油価格はズルズルと滑り落ちてきた。

 この原油価格の急激な下落は、米国の原油在庫の増加と、同国の景気先行き不安や行き過ぎた高騰から需要そのものが縮退すると見られたことが主要因とされている。

 また、これまで中長期・持続的にエネルギー需要が増すと見られた中国も、17日発表された2008年第2四半期の国内総生産(GDP)が実質で10.1%増に減速。北京を中心に不動産やホテルのだぶつきが目立つようになり、株価も低迷。中国政府が経済運営を「下ぶれ警戒」にするなど、“中国の需要が伸び続ける”という原油高騰の前提シナリオに疑問符が付き始めた。「2010年の上海万博が終わるまで、(中国)政府は絶対に今のバブルを崩壊させない。クルマとガソリンの需要増は続く」(北京在住の日本車メーカー幹部)という強気な声がある一方で、「北京五輪後に中国の景気停滞があらわになれば将来的な需要増の予測は緩やかになり、投機マネーの動きは慎重になる。価格が沈静化する可能性が出てきた」(石油元売り会社関係者)という見方もある。いずれにせよ、北京五輪を境にした中国経済の行方が、原油価格に大きな影響を及ぼしそうだ。

原油の値下がりが、クルマの未来を阻む?

 原油価格の乱高下が今後どうなるか。それはまだ不分明な領域にあるが、仮に原油価格が沈静化すれば、燃料費高騰によるインフレ高進からスタグフレーションに突入というシナリオはひとまず回避される。特にガソリン依存のクルマ社会が、一息つけるのは間違いない。

 しかし、クルマ社会の未来を見据えると、ガソリン価格が下がりすぎることは、必ずしもメリットばかりとはいえない面もある。ガソリンが安ければ、クルマの「脱ガソリン」を急いで進める理由がなくなってしまうからだ。ドライバーの危機感は緩み、プラグインハイブリッドやEV(電気自動車)、超低燃費カーに乗り換える必然性が薄れてしまう。

 ガソリン代が1リットル180〜200円前後で高止まりすれば、自動車メーカーは脱・減ガソリン技術の実用化と普及拡大を急がざるを得ない。さもなくばより一層の「クルマ離れ」が進むからだ。しかし、仮にガソリン価格の沈静化や値下がり傾向が顕著になれば、消費者側の脱・減ガソリン技術へのニーズが減少し、プラグインハイブリッドやEVの急速な普及にとって逆風になる可能性がある。

 ガソリン価格が下がることは、ドライバーとしては確かにうれしい。しかし、それが脱・減ガソリン技術の革新と普及という「クルマ社会の変革」を遅れさせる要因になってしまうことも考えられるのだ。

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