第6回 ファイナンスの応用(1)保田先生! 600秒でファイナンスを教えてください(2/2 ページ)

» 2008年07月17日 00時00分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]
JMA Management Center Inc.
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 しかし、新薬の開発が重要なのは今に始まった話ではないだろうに、なぜ数年前というタイミングで数々のM&Aが製薬業界に一挙に起こったのか、という疑問も湧いてきます。

 それは、かつてに比べ求められる薬が高度化し、必要となる研究開発費が大きくなってきたことが理由です。きっと企業経営陣は損益計算書の研究開発費の項目を見ながら、「う〜ん、この規模の費用では今後求められる薬を開発できるかどうか心もとないなあ」と思ったことでしょう。そこで、M&Aで規模を追求する、という選択肢を思い当たることになるのです。

 ひとたびある企業がM&Aで突然企業規模を大きくすると、ほかの企業は規模の面では相対的に不利になります。

 M&Aで誕生した新しい企業の財務諸表を見て、ほかの企業の経営陣は恐怖に慄いたことでしょう。そこで、「我も続け」とこぞってM&Aを選択するようになります。製薬業界で、日本、海外の両方で同じようなタイミングでM&Aが立て続けに起こった背景はこういうことなのです。

 これらの国際的なM&Aの結果、海外では巨大製薬メーカーが出現しました。世界の製薬メーカーの医療用医薬品の売上高のトップ10を見てみると、上位4社は最近のM&Aによって誕生しています。

 このトップ10に日本企業は登場しません。日本最大手の武田薬品工業でも17位です。そういう状況に対して、日本の製薬メーカーの今後の競争力を心配する声もあります。

 ただ、最近は日本の製薬メーカーもM&Aに対してより積極的になっており、武田薬品は米国のバイオ医薬品メーカーであるアムジェンの日本法人の買収を発表し、エーザイは米国のMGIファーマを買収すると発表しました。また、今後の製薬市場ではバイオ技術の活用が注目されています。多くのバイオ技術は途上にあるので、それらを手がけるベンチャー企業を先に発掘するなど、規模以外の面での取り組みも重要性を増しています。

 また、M&Aの積み重ねで規模を巨大化したファイザーでは、最近はM&Aによる内部的な弊害の影響で収益性が悪化している、という現状もあります。どんな戦略でも選択後、いかに成功裏に実行していくかが重要であることを改めて認識させられます。

※書籍を一部修正して掲載致しました。

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著者プロフィール:保田隆明

外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


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