グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年7月4日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
今年の夏もまた、ボルヴィックによる「 1L(リットル)for 10L 」キャンペーンが始まっている。アフリカの「水汲み」から、日々の仕事をどうしたら楽にできるのかを考えてみた。
店頭によってはまだ、キャンペーンが記載されたボトルが並んでいないようだが、今年のキャンペーンは6月1日から9月30日まで。
昨年第1回が開催され大きな反響を呼んだこのキャンペーン。ボルヴィックのミネラルウォーターを消費者が1リットル購入するごとに、10リットルの清潔で安全な水がアフリカに生まれるという。具体的にはユニセフを通じ、飲料水を確保するための井戸づくりと、10年間に渡るメンテナンスを行う資金に充てるということだ。
筆者は環境負荷を考え、湧出地が近い製品を普段は選んだりしているのだが、この季節ばかりは積極的にキャンペーンに乗って、ボルヴィック製を飲み続けてしまう。同社の戦略に乗せられているのはわかっているのだけれど、悪いことではないのかなとも思う。
さて、同キャンペーンでアフリカに作られるのはごく普通の手押し式ポンプ井戸のようだが、気になる井戸を見つけた。「プレイポンプ」というらしい(参照リンク)。
上記リンク先に仕組みは詳しく書かれているが、簡単に言えば、人力で回すメリーゴーランドのような子供たちの遊具が、手押し式ポンプの代わりになっているのである。子供が遊具を回して遊ぶ。すると、水が汲みあがって地上7メートルに設置された2500リットル入りのタンクに収容される。
ボルヴィックによって設置される手押し式ポンプでも十分役に立つ。だが、この「プレイポンプ」はさらにその上を行く発想であると思う。
「仕事が楽しみならば人生は極楽だ。仕事が義務ならば人生は地獄だ」
そんな言葉を遺したのはロシアの作家、マクシム・ゴーリキー(1868〜1936)。「仕事というものは決して楽しいものではないが、同じ働くのであれば、その仕事を楽しいと感じるような方法を身につけるべきだ」と解釈されることが多い。
確かに、同じ仕事でも心の持ちようで辛くも楽しくもなる。それが義務ではなく、自分にとっての楽しみであると考えることができれば、同じ仕事でも全く違った気持ちで当たることができる。
だが、もう一歩進めて考えてみたい。仕事自体を全く違うプロセスに変革できれば、本当に仕事を楽しくできるのだ。今回紹介した「プレイポンプ」はそんな好例ではないだろうか。
遊具を回すことが、今まで辛かった水汲みの労働に代わり、水を確保するための仕事になると、今まで誰が考えただろうか。
安全な水を確保できるという機能では手押し式のポンプと代わらない。しかし、遊ぶこともままならず、毎日何時間もかけて、重いタンクを持って水汲みに行かされていた子供たちのことを考えると、それが遊具になるということは画期的なことではないだろうか。
「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからなんだよ」
これは、『夜間飛行』や『星の王子様』を著わしたサン・テグジュぺリの言葉。遊具で遊びながら水が汲み上げられるようになった子供たちは、足下の水資源に気づき、感謝し、辛いばかりの自分たちの生活環境を、やっといい場所だと考えられるようになったのではないだろうか。
「変革は大胆に」と思う。水が必要なのでポンプを設置する。これはとても必要なことだ。しかし、できればさらにそれが「苦役からの解放」だけではなく、「楽しみ」になるような大胆な変革ができればすばらしいことだ。
我々の日々の仕事や生活の中にも、変革の機会は眠っているのだろう。
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