第5回 ファイナンスの実践(後編)保田先生! 600秒でファイナンスを教えてください(4/4 ページ)

» 2008年07月10日 00時00分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]
JMA Management Center Inc.
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ハードルレートとの関係

 さて、本章の冒頭で、「本章ではハードルレートがどうやって決まるかを見ます」と書きました。すでにお気づきかと思いますが、ハードルレートは資本コストを基準として決定されます。企業は黒字を達成するだけでなく、企業の平均資金調達コストである資本コストを上回る収益を上げて、はじめて価値を創造していることになります。したがって企業は各事業部に対しては資本コストを上回る収益を稼ぐように、と指示を出すのです。

 どれぐらい上回るのかは企業によってまちまちですが、資本コストと同じ数値をハードルレートにしてしまったのでは、企業は資本コストをカバーするだけで終わってしまい、富の創造につながりません。よって、ハードルレートは資本コストに数パーセント上乗せされた水準となります。

 例えば、105ページ図40のケースでは、A社の最終的な資本コストは3.06%、B社の資本コストは5.16%でした。それぞれ3%ずつ上乗せた水準をハードルレートとするならば、A社約6%、B社約8%がハードルレートとして設定されます。

 B社でもA社同様に6%をハードルレートとしても資本コストよりは高いので問題はありません。しかし、プロジェクトはすべてうまくいくわけではなく、うまくいかないプロジェクトも多数発生することを加味すると、B社にとっては6%のハードルレートでは余裕分=バッファーがほとんどなくなってしまいます。

 B社では資本コストがA社よりも高いためハードルレートが高くなります。よってA社が手を出せるプロジェクトでも、B社は手が出せない、ということもあり得ます。具体的には、年率7%のリターンを提供するプロジェクトがあった場合、A社ではハードルレートに見合いますが、B社ではハードルレートに見合わずに取り組むことができないのです。これはB社から見てみると、機会損失につながります。

 このように、資本コストを低いレベルでコントロールすることは非常に重要なのです。

 資本コストを最低にするような自己資本比率がわかれば、それに応じておのずとROE、ROAも決まってきます。目標とするROE、ROAと実際のROE、ROAに乖離があれば、ひたすらリターンである利益を高める、ということになります。ちなみに、日本の上場企業の平均ROEは約9%であり、米国企業の約半分の水準にとどまっています。その理由の1つには、日本では自己資本比率が米国企業に比べて高すぎること(レバレッジが有効活用できていない)ことがあります。これはすなわち資本コストが高止まりしていることも意味します。

 このように資本コスト、自己資本比率、ROE、ROAは密接につながっているため、資本コストを基準として決められたハードルレートを事業部単位で達成していれば、会社が目標とするROA、ROE、自己資本比率なども自動的に達成されることになります。

 →次回に続く

※書籍を一部修正して掲載致しました。

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著者プロフィール:保田隆明

外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


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