インタビュー
» 2008年07月04日 22時00分 UPDATE

洞爺湖サミット直前だからこそ読んでほしい本:『地球と一緒に頭も冷やせ!』とは?――訳者・山形浩生氏に聞く (1/2)

「温暖化による熱波の被害者より、寒波が減少して助かる人の方が多い」「京都議定書の効果は、21世紀末の気温を0.18度押し下げる程度しかない」……ビョルン・ロンボルグ氏の『地球と一緒に頭も冷やせ!』は、豊富なデータ分析から導かれた、驚くべき提言に満ちている。地球温暖化に対し、我々がCO2削減より先に、今すべきこととは?

[堀内彰宏,Business Media 誠]
ah_hyoshi.jpg ビョルン・ロンボルグ著 山形浩生訳『地球と一緒に頭も冷やせ!』(ソフトバンク クリエイティブ刊)

 洞爺湖サミット直前。テレビ番組はエコ特番を流し、新聞は企業や団体がいかにCO2の削減に力を入れているかを報道している。しかし、改めて考えてほしい。「僕らは何のためにCO2を削減しようとしているんだっけ?」

 おそらくほとんどの人は、「温暖化が進むと地球は危機に陥るから、CO2を頑張って削減しなくてはならないのだ」と刷り込まれている。まずCO2削減という“目標ありき”なのだ。CO2削減には莫大なコストがかかる。しかし、削減の目的や費用対効果について、僕らはきちんと検討したことがあっただろうか?

 ビョルン・ロンボルグ氏の著書『地球と一緒に頭も冷やせ!』は、そんな感情的な方向へとミスリードされがちな温暖化の議論に、文字通り冷や水を浴びせるような内容となっている。

 「温暖化が進むと地球は危機に陥る」「CO2を削減すると温度は下がる」「頑張ればCO2は削減できる」、こうした事柄が現状では過大に受け入れられがちだが、ロンボルグ氏は1000を超える参考文献を示し、的確な考察を進めることでその誤解を改めていく。

 そして問題点をただ指摘するだけではなく、温暖化防止はコストがかかりすぎることについても示し、より効果的に目的を達成するにはどうすれば良いのかという代案も提示。豊富な原データや原論文をもとに、温暖化について冷静な分析を行っている本書は、ともすれば感情的な議論に陥りがちな環境問題を正しく理解する上で貴重な1冊になるだろう。

 訳者の山形浩生氏が本書、そして著者ビョルン・ロンボルグ氏について語ってくれた。

最初は「本当かよ?」と思った

――本書を訳すことになった経緯は?

ah_yamagata.jpg 訳者の山形浩生氏

山形 2002年に英国の雑誌『エコノミスト(参照リンク)』『環境危機をあおってはいけない』(ロンボルグ氏の前著)の書評をみて、面白そうだと思って読んだのがロンボルグ氏を知ったきっかけです。『環境危機をあおってはいけない』は、環境団体が言うほど世の中は悪くない、いろんなものが改善されているんだという内容です。最初は本当かよと思いましたが、いくつか出所をたどって調べてみると本当だった。

 「環境には何も問題がないというわけではないが、今にも地球が滅びるという宣伝をするのは良くない」という彼の意識に共感できたので、『環境危機をあおってはいけない』や『地球と一緒に頭も冷やせ!』を訳すことにしました。『地球と一緒に頭も冷やせ!』は、『環境危機をあおってはいけない』の温暖化について書かれた部分を抽出したような作品です。温暖化は環境問題でも主要なトピックですし、アル・ゴアの『不都合な真実』がミスリードしすぎじゃないかということがきっかけとなって執筆したようです。

――本書でロンボルグ氏は「『なぜ温暖化を止めるのか』ということについて根本的な議論がなされていない」と主張しています。どうして、議論されないのでしょうか。

山形 温暖化をなんとかしないと地球は今世紀末までには滅びてしまうので、何も考えずとにかくお金をつぎ込めという感じの論調が多くなっているからというのが一番の理由ですね。その典型が、『不都合な真実』です。

 また、「地球環境」と聞いたら「何とかしなければいけない」という回答が即座に出てくるような思考パターンが私たちの脳に潜在的に刷り込まれていることもあるからかもしれません。新聞を何となく見ていて、「ダイオキシン」というのは「いけないもの」とか、「CO2が多い」と「いけない」といったパターンを知らず知らずのうちに身に付けてしまっているため、ある問題が発生しても深く考えずにパターンで済ませてしまっていることが議論されない原因となっているのでしょう。

――環境問題では恣意(しい)的な統計が使われがちであることや、論点がずれてしまいがちだということが本書で示されています。

山形 環境問題はあらゆる点で因果関係が証明されきっている分野ではないため、こじつけようと思えばいくらでもこじつけられるものです。今年の夏が暑いと、それは異常気象だから、温暖化だからと言えてしまう。因果関係を正確に証明できなくても、ある程度雰囲気ができてしまえば何でもつなげられる便利さがあることが良くないのかもしれません。

 また、自分たちが多少豊かな生活をしていることに対する後ろめたさのようなものが、環境問題に対して批判的な視点を持つことを妨げているとも思います。「こんな安楽で世の中は良いわけがない。何か悪いことがあるはずだ、その悪いものに対抗することで自分も何かしているという意識を持ちたい」という気持ちが、冷静に分析することを阻んでいるのではないでしょうか。「問題ですね」と言うだけなら、話がしやすいですし。しかし一方で、ガソリンが10倍の値段になるというと、「それは待った」と言うんですけど。

――ロンボルグ氏は、「温暖化は言われているほど大したことはないが問題であることは間違いない」との認識です。しかし、本書で大したことではないと言ってしまうと、環境意識が低下して適切な対策がなされなくなるのでは?

山形 確かにそうです。しかしその一方で、変な形で温暖化防止議論が進むことによる害も出てきています。あるインド洋の国での出来事です。ここは電力危機に陥っているために首都は停電続きで、各種産業の誘致に失敗して、失業率も高くなっている。大きめの石炭発電所を作れば問題は解決するとみんな知っているのですが、環境NGOが地球温暖化を理由に反対していることもあって発電所建設が阻止されているのです。

 温暖化対策に資金を投じることで、発電所が建てられないという状況は本当に良いことなのでしょうか。もちろん、温暖化を放っておいたら5年で地球が滅ぶというのなら発電所は我慢してもらおうという話になりますけど、やはりそのあたりの重みづけは電気がなくなって困っている側にも聞いてみるべきではないでしょうか。ある問題に極端に反応してそれが実際に効果を生まなかった一方で、いろいろできたことができなくなってしまうことがかなりの損失であることは間違いないわけです。

 温暖化対策について、掛け声だけはだんだん大きくなっています。京都議定書のCO2削減目標である1990年の6%減が達成できるかできないかという時に、洞爺湖サミットで2050年までに半減させようという話をするわけです。あまりそうやって話を大きくすると、掛け声の信頼性も揺らいでしまうのではないでしょうか。

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