お通し無料、接客マニュアルなしの理由――串焼きチェーン「くふ楽」福原裕一氏(中編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/3 ページ)

» 2008年06月28日 05時30分 公開
[嶋田淑之Business Media 誠]

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で目標に向かって邁進する人がいる。会社の中にいるから、1人ではできないことが可能になることもあるが、しかし組織の中だからこそ難しい面もある。

本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現するビジネスパーソンをインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


 全18店舗がすべて黒字経営、年間離職率はわずか5%。スタッフのほとんどを占める若いアルバイトたちがいきいきと仕事に取り組む居酒屋チェーンがある。それが、「くふ楽」「福みみ」「生つくね 元屋」「焼酎泡盛 豚の大地」などの店舗を展開するKUURAKUグループだ。

 KUURAKUグループのスタッフは、ほとんどが若いアルバイトだ。一般に離職率が高いのが普通な飲食業界で、彼らはなぜ辞めることなく、高いモチベーションを保って仕事ができるのか。KUURAKUグループの代表取締役、福原裕一氏(43歳)へのインタビューを通じて探っていく。

 →千葉県から世界へ! 串焼きチェーン「くふ楽」が目指すもの――福原裕一氏(前編)


KUURAKUグループの戦略経営とは?

 まず、KUURAKUグループの経営がどのような構造になっているかについて、戦略経営のフレームワークで見てみよう。

 戦略経営のフレームワークでは、「理念」(ミッション、経営理念、長期ビジョン)を経営の最上位に、その下に、「戦略」「システム/プロセス」「組織」(能力)という3つのファクターを置く。そして、これら3つを通じて創出される価値を次のようにとらえる。

戦略 = 顧客価値+社会価値

システム/プロセス = 付加価値+システム/プロセス価値

組織(能力) = 個人価値+組織価値

 KUURAKUグループの場合、経営理念を実現するために、従業員満足(=個人価値)を徹底的に高めることにより、チーム力としての組織の価値を大きくしているところに特徴がある。

 そして、この高水準の個人価値+組織価値が、CS(=Customer Satisfaction)としての顧客価値や、CSR(企業の社会的責任)としての社会価値の創造レベルを高める原動力になっていると言って差し支えない。

 個人価値+組織価値を極大化するために、同社では、システム/プロセスを革新し、経営理念+経営情報の全社で共有することにより、それを通じた“経営速度”を速め(=付加価値の創造)、環境変化に即応して好業績を上げてゆけるだけの現金創出力(=Cash Generation)を確保しているのである(=システム/プロセス価値の創造)。

“値ごろ感”という価値を実現

KUURAKU GROUP代表取締役の福原裕一氏。「くふ楽」「福みみ」「生つくね 元屋」「焼酎泡盛 豚の大地」などの居酒屋チェーンを経営する

 インタビューの前編では、主に同社の経営理念を検討した。そこで今回は戦略、それも上記の顧客価値と社会価値を中心に検討したいと思う。

 では、まず、顧客価値から見てみよう。企業が顧客に提供する製品/サービスの価値には、3つのタイプがある。飲食店であれば以下の通りだ。

(1)効用価値

 食材の品質・希少性、調理のセンスや技術において、ハイクオリティを追求する。たとえ価格が高くても、顧客側もその効用の高さゆえに納得するタイプの価値創造。ミシュランガイドで星をもらったレストランやそこで出す料理を想像すれば分かりやすい。

(2)価格価値

 料理のクオリティは高いに越したことはないが、それ以上にまず安さが重要、というタイプの価値創造。食材の品質や調理のセンス・技術が超一級品でなくても、庶民の味方として親しまれているところが多く、時として“掘り出し物的”な逸品に出会える場合がある。街の定食屋や、回転寿司チェーン、ガード下の飲み屋といった店を想像すれば分かりやすい。

(3)値ごろ感価値

 (1)と(2)の中間に位置する価値創造。食材の品質や希少性、あるいは調理のセンスや技術は(1)のようなレベルには及ばないものの、一定以上の高い充足感を味わえる。支払う対価は(2)ほど格安ではないものの、決して割高感のない納得度の高い価格帯になっている店だ。デート、あるいは友人同士や職場で繰り出す時などに使い勝手の良い店が多い。

 こうして見た時、KUURAKUグループの顧客価値創造タイプは、(3)「値ごろ感価値」に該当する。

 例えば「くふ楽」は、焼鳥を中心に供している店だ。「部位ごとに違った産地の鶏肉を用い、それを備長炭で焼いています」と福原氏が話すとおり、例えば千葉県産のハーブ鶏を使うなどのこだわりがある。とはいえ、名古屋コーチンとか比内地鶏など、最高級の鶏肉で勝負しているわけではない。その代わり客単価は、千葉県の店舗より高い銀座店でも3500円ほどと、無理がない。

 銀座というのは、(1)タイプの店を出しやすい土地だ。例えば銀座にある有名な某焼鳥店では、奥久慈軍鶏と高級なワインや日本酒を出しているが、客単価は8000円台だ。こういった(1)の効用価値を追求している店と比較すると、くふ楽が実現している“値ごろ感価値”がよく分かるだろう。

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