“作る”と“食べる”がつながる、ながしま農園の野菜づくり郷好文の“うふふ”マーケティング・特別編(3/4 ページ)

» 2008年06月26日 22時11分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

オランダの菊

 きっかけはドイツでの農業研修にさかのぼる。環境保全農業やクラインガルテン(市民農園)を学びたい一心で欧州に渡った。だが、研修先の会社の社長が急死すると、経営が行き詰まり農場はつぶれた。長島さんは研修期間を残して行き場を失ってしまったのだ。

 「さて、どうしよう」。同じ農業研修をする日本からの仲間に連絡をとると、オランダの花き栽培なら研修できるという。ドイツ語も通じるし、花を造るのも面白そうだと出発。オランダに到着すると、そこには6ヘクタールものビニールハウスがあった。どのくらいの規模か。100メートル四方のハウスが6個並ぶ姿を想像してほしい。しかも栽培される花はすべて“菊”でほとんどが日本向けだ。

 圧倒されながら、長島さんはハウスの管理者に聞いた。「どうやって収穫期が分かるんですか?」

 「見回って、あ、これ咲きそうだなというヤツから採っていくのさ」

 半ば冗談、半ば本当だった。温度調整されたハウスの整然と区画された畝に菊の苗を植え、根に挿す管で養分を注入し、コンピュータ制御でモニタリングする。どの区画のどの花がいつ頃収穫できるか予測がつくため、“見回るだけ”でいいのだ。

 それを聞いて長島さんは叫んだ。「オレはこんな農業をやりたいわけじゃない!」。日本の花を大量輸入するのはおかしい――これが転機になった。おいしい旬な野菜を適地適作で作ろうという気持ちになった。その思いがジグソーパズルのような畝と年間120品目出荷につながっているのだ。

四季折々の野菜を一手に供給できる強み

 帰国後、長島さんが野菜づくりにまい進したところ、京急百貨店が開業準備に入り(1996年10月開業)、野菜の供給先を探していた。その後、ながしま農園と京急百貨店は取引が始まり、今では作物の6割は百貨店と生協チャネルで販売されている。

いい顔をしているじゃがいも

 残りの4割のうち、飲食店が3割。地元の「シェラザード」(フレンチ)や「アクアマーレ(イタリアン、取材中に仕入れに来ていた)」などで、“野菜目当て”のお客さんが多い飲食店だ。長島さんに内緒で出荷メモをのぞき見したら、そこに「ブノワ」とあった。ミシュランで1つ星を獲得したレストラン、パリの「ブノワ」の東京店(青山)だ。

 残りの1割が、直売所などでの対面販売や自家消費。お話を聞き終えて出荷所に戻ると、奥さんのフランチスカさんが、子供を連れて野菜を取りに来ていた。ドイツのフライブルグ出身で、農業研修が縁で結婚、子供は生後9カ月なのにしっかり歩く。野菜パワーだろうか。

「アクアマーレ」向けの出荷をする長島さん

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