“作る”と“食べる”がつながる、ながしま農園の野菜づくり郷好文の“うふふ”マーケティング・特別編(1/4 ページ)

» 2008年06月26日 22時11分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

 長島勝美さん、神奈川県横須賀市生まれ、今年36歳。鎌倉時代から代々続く家業の農園を継いでいる。“野菜のジグソーパズル”と自ら表現する120品目の野菜や加工品を、たった1.2ヘクタールの棚田で作る。土壌づくりから生まれる味の濃い野菜から、彼のポリシーでもあり生き方でもあるメッセージ、“自分の食べたい野菜を作る”が実感できる。

 ながしま農園の野菜はうまい。取材後に野菜がどっさり送られてきた。段ボール箱を開くと新鮮な香りがぷんぷんする。冷やしもせずにミニトマトを頬張った。甘いぞ、肉がしっかりしているぞ。トマトって、本来こういう味だったよな。

野菜の匂いがする

年中出まわるトマトに日本農業の縮図あり

 筆者は同僚Cherryさんとともに、三浦半島の「ながしま農園」を訪れた。

 京浜急行YRP野比駅から通研通りを上り、傾斜地に広がる農園は、戦前から米の二期作(年に2回収穫)で地域一番の収穫高を誇っていた。だが高度成長期からの減反政策、つまり米の生産抑制によって収穫高の多い稲作農家ほど大幅な減反を求められた。そのため、ながしま農園の棚田は自家用の野菜畑へと姿を変えた。しかし、地域一番の石高(こくだか)をあげた工夫は野菜作りにも生かされ、ほどなく自家だけでは野菜が食べきれなくなり、1977年に直売所を開くこととなった(現在は閉鎖)。

 家庭菜園をしたことのある人なら分かるだろうが、トマトの旬は6月からだ。だが日本の流通市場では、年中トマトが出回っている。その功罪を勝美さんはこう語る。

 「トマトは本来6月から8月に採れるものですが、『冬作にしたら高く卸せますよ』という業者の勧めに多くの農家が従ってしまいました。そうしたら、かえって冬場にトマトがあふれて安くなってしまった」

 冬作をするためには、ビニールハウスに暖房機を入れなければならない。燃料費が安い時代なら良かったが、今は重油高である。収穫率が高く安定出荷できる水耕栽培もあるが、初期投資がかさむし燃料費もかかる。そして最大の問題は、店頭に到着したときに一番赤く見せる“流通に乗せやすくするためのトマト生産”でしかないのだ。土から養分をしっかり吸収させずに、“トマトな味”を作るのは難しい。

 ビニールハウスの暖房システムは中国など労働コストが安い地域にも輸出されるので、ほかの国との競争も生じる。人件費の安い国で、同じやり方で生産された野菜と競争できるだろうか? 逆張りを狙って冬にシフトして、儲かったのは農業システム企業であり日本の農家ではなかった。

逆張りではない多品種少量出荷

 ながしま農園では、皮肉にも供給が増えない初夏から味の良いトマトを出荷する。何しろ原点は“自分で食べきれないものを売る”のである。差別化狙いの“逆張り”ではないのが強みだ。

多品種少量出荷は手作業

 百貨店や生協などを通じて旬のながしま野菜を望む消費者が増えている。また、食材にこだわるレストランが、ながしま農園から直接仕入れをする。

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