第3回 ファイナンスの基本保田先生! 600秒でファイナンスを教えてください(6/7 ページ)

» 2008年06月26日 00時00分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]
JMA Management Center Inc.

新規事業の投資効率を考えるときには

 さて、そんな企業経営にとって重要なROA、ROE、自己資本比率の指標ですが、企業経営に携わっていない一般のビジネスパーソンにとっては、「そんなの関係ないよ」という世界に思えてしまうかもしれません。そこで、それらの理論は理論として理解した上で、事業部単位、部署単位ではどういう指標を重視して業務に当たっていくべきか、という話をしましょう。

 会社の目標とするROA・ROE・自己資本比率の数値を知っていたとしても、例えば「新規事業でいくらのリターンを上げるべきか」という問いにはなかなか答えられません。部署で新規事業行うときに、「会社の自己資本比率は40%で、目標とするROEとROAはそれぞれ10%と4%で、だからこの新規事業で求められるリターンは……」と考えをめぐらせることはないでしょう。

 中には経営者的視点でそういう考えをめぐらせる人もいるのかもしれませんが、経営者としては、部署の誰にでもわかりやすい形で会社の目標を噛み砕く必要があります。

 「この新規事業からは年間これぐらいのリターンを出してください」と一言伝え、それを達成してくれれば自動的に会社が目指すROA、ROE、自己資本比率などの指標も達成できている、という状態が理想的です。そうでないと全従業員にROA・ROE・自己資本比率などを教え込まねばならず、いつまで経っても事業を開始できません。

 こうしたことから、多くの企業では事業の投資額に対する利益の比率を示すものとしてハードルレートという基準を設けて部署や事業ごとの収益目標値を明確にしています。

 経営陣や財務部が「うちの会社のハードルレートは8%なのでそれを下回る事業は撤退対象となる」と社内に告知します。社内の担当者は「なぜ8%なんだ?」と思いながらもとりあえずは8%の達成を目指します。ここではROA・ROE・自己資本比率なんて難しい話は登場しません。とにかく8%を達成すればいいのです。これなら誰にもわかりやすくなります。

 でもこの本を読んでいる皆さんは、そういう現場への指示と経営者の考えがどうリンクしているのか、というカラクリが知りたいと思うでしょう。

 またペラトンホテルにご登場いただき、ある新規事業投資をするケースを考えてみましょう。

 無事新ホテルを開業したペラトンホテル、新ホテルの経営も順調です。そこで今度は「5億円を投じて新規事業としてレストランを展開する」ことになりました。さて、ここでは毎年いくらのリターン上げるべきでしょうか? レストラン事業は図28のような2つのパターンで収益状況を予想しています。

 楽観シナリオでも現実シナリオでも両方とも数年後には黒字になり、利益が出るようになってからの利益率は2桁と非常に高くなっています(実際はこんなに利益率の高いレストランは存在しないでしょうが……)。したがって、このレストランの開業には当然ゴーサインが出る、と思われます。しかし、現実にはそう簡単にはゴーサインを獲得することはできません。なぜでしょうか?

 確かに売上と営業利益の予想だけ見ていると、悪くなさそうな印象を受けます。しかし、ここでポイントとなるのは、「投資したお金に対するリターン」です。このレストランには「開業当初5億円を投資する」、ということでした。便宜的に「営業利益=投資回収額」だとすると、5億円の投資に対して5年間で回収できる総額はそれぞれ図29の通りになります。

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