第3回 ファイナンスの基本保田先生! 600秒でファイナンスを教えてください(1/7 ページ)

» 2008年06月26日 00時00分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]
JMA Management Center Inc.

 損益計算書や貸借対照表など、今まではアレルギーのあったものが少し理解できるようなったヒロシ。しかも、決算書と株価のつながりまでなんとなく把握することができました。昼休みにそこまでを読み終えて会社に戻ったヒロシに先輩が話しかけてきます。

 「さっきは悪かったな。思い出してみると俺もお前ぐらいのときは決算書とか読めなかったわ。本で学ぶのも重要だけど、俺が知っていることは先に教えてやった方がいいよな」

 どうやらヒロシのガッツに先輩は突き動かされたようです。

 「うちの事業部だけでもいろんなプロジェクトがあるから、収益分析をするにはわかりやすいポイントを押さえるのが重要なんだよ」

 「わかりやすいポイント、ですか……?」

 「決算書は全部理解できなくていいんだ。少し見てみるだけでたくさんのことがわかる。例えば……」

 先輩の話によると、収益分析において重要となる「費用」は業界ごとに特色があるのでそれを把握すると分析が速くなること、黒字を出すことも重要だけれども、売上・利益以外に資産の有効活用も考えなければならない、ということです。

 本連載では、決算書をちょっと眺めるだけで、業種ごとの費用構造が理解できて、企業間の競争優位性を把握し、企業の経営を効率的にするにはどうすればいいかのヒントが得られる、ということを見ていきます。

 →第1回 決算書は読めなくても大丈夫

 →第2回 ファイナンスの全体像

 前回までで、決算書は細かいところまで理解する必要はない、と話しました。また、決算書は図で覚えましょう、とも話しました。図で覚えて、実際にどう使うのか、まずはそこから話を始めます。

企業に絶対必要なもの=人

 決算書の知識が全くない状態の何人かの大学生に、「企業にかかる費用にはどんなものがある?」と質問してみると、人件費が最初に出てきました。確かに、世の中にあまたある企業の中で「無人企業」というのはお目にかかったことがありません。

 企業には必ず人件費が発生するものです。モノを作るにも、宣伝するにも、販売するにも全てにおいて人が必要です。売上を上げるには人が必要なのです。しかし、人を採用しすぎては費用ばかりが大きくなり利益が出ません。そこで、どの程度の人件費をかけるべきなのか、ということが経営上重要となります。

 起業したての企業では、どうしても人件費が先に出て行き、売上は後からついてきます。したがって、企業の歴史が浅いほど人件費率は高くなりがちです。これは一種の先行投資であり、ある程度事業が軌道に乗ってくると人件費率も安定してきます。その際、重要なのは他社との比較において、自社が人件費をかけすぎていないか、ということです。

 図18は飲食業界における3社の給与(人件費)率と営業利益の売上における比率をまとめたものです。

 人がいないと企業が成長しないことは間違いありませんが、同時にこの人件費率が企業の費用の最も大きなものの1つであることもまた事実です。私たちが日々給与やボーナスがなかなか上がらないと嘆くのは、経営陣にとっては売上との対比でこの人件費をいかに効率的に管理するかが重要であることの裏返しでもあります。

 人件費率が低いと利益率が高まる可能性も高くなりますが、それでは低ければ低いほど収益性は高くなるのでしょうか?

       1|2|3|4|5|6|7 次のページへ

copyright (c) 2010 JMA Management Center Inc. All rights reserved.