インタビュー
» 2008年06月20日 23時15分 UPDATE

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」:千葉県から世界へ! 串焼きチェーン「くふ楽」が目指すもの――福原裕一氏(前編) (2/3)

[嶋田淑之,Business Media 誠]

苦労や挫折の多かった若き日々――「理念」の原点

 「子供の頃は、必ずしも豊かとはいえない家庭でした。社会に出て、自分のお金で初めて外食した時は本当に幸せを感じました」と福原氏は振り返る。

 外食産業に携わることになったのも、「食」というものが、どんなに人を幸せにし得るものか、体験的に熟知しているからだろう。「たとえ夫婦喧嘩していても、食べることで幸せになるとは思いませんか?」と、福原氏は微笑む。

 飲食店に勤めて腕を磨き、25歳で起業した。「でもその頃は、『金持ちになりたい』という自分のエゴがありました。若さとエネルギーがあれば何でもできると自分の力を過信していましたし、金持ちになるためにはボロボロになってもいいと思って、毎日18時間働きました。でも、イメージって現実化するんですね。本当にボロボロになってしまったんですよ」

 経営はうまく行かず多額の借金を抱え、母親は重体という過酷な状況下で福原氏は入院した。そして、病院のテレビで地下鉄サリン事件を知る。「死というものを身近に感じましたね。そして思ったんですよ、人生を一生懸命生きたいと」

 その後の生き方は、それまでとは全く異なる様相を呈してゆく。

社員ひとりひとりが共感できる「経営理念」

ay_shimada05.jpg くふ楽本八幡店(現在の店舗の写真)

 「先が見えない中で、再起を賭けて創業したのが、今のKUURAKU GROUPなんです」。1999年に有限会社くふ楽を創業、1号店を千葉県・本八幡、2号店を船橋に開いた。

 それから9年が経った。途中、多少の紆余曲折はあったものの、今や同社は、国内16店舗、海外2店舗を有し、しかも全店黒字経営という実績を挙げるまでになった。この躍進を方向づけ、支えてきたもの――それは、福原氏の“想いの強さ”であり、それを明文化した経営理念であろう。

経営理念

お客様と共に感動をわかちあおう。

与えられるのでなく、自分自身で考え率先して行動しよう。

夢、目標に向かって、全力で努力しよう。

 「ミッション(企業の使命や経営理念)→ビジョン(将来の姿、目指す方向)→バリュー(価値、社員の行動規範)」という理念群の階層の中で位置づけると、明らかにこれは社員行動規範としてのバリューに一番近い内容である。

 すなわち、一般社員からは縁遠い経営理念(社長室の額縁の中に飾られている、毛筆書きのアレだ)ではなく、あくまでもローアングルな現場的視点に立った、すべてのスタッフに共感・共有できる内容になっているのである。

 言い換えれば、ひとりひとりのスタッフが、日々どう考え、どう行動したらよいかが明確かつ疑う余地のない形で示されている。

 この経営理念こそ、福原氏が一般生活者の心情を代弁し、現代日本の飲食業界のあり方に提起したアンチテーゼだと筆者は考えるのだ。

日本の外食産業は、客を幸せにしているだろうか?

 今や、日本はグルメ大国である。ミシュランガイドの東京版(参照記事)まで作られるほど、日本の食は評価を高め、世界の注目を集めている。

 しかし、現代日本の飲食店が実際に、どれほど人を幸福にし得ているかとなると、若干の疑問があるだろう。

 テレビのグルメ番組に常連のように登場する“有名高級店”に足を運べば分かるが、こういう店は、時に客を差別的に扱う。有名人や金持ちに対しては、卑屈な笑いを浮かべてすり寄り、至れり尽くせりのサービスをするが、無名の一般人に対しては、冷淡かつ適当にあしらう店は少なくない。特に東京の店にはその傾向があるように思う。

 大切な人と、一生の思い出に残るような日に、奮発して行ったのがそのような店だったら、楽しいはずの日に、惨めな気持ちで家路に着くことになりかねない。

 一方、庶民的なチェーン店はどうか。こちらは、やる気のないアルバイトスタッフの、心のこめずにマニュアル通りの接客や、客の気持ちや状況を考えない、融通の効かない対応にイラッとさせられる瞬間が多い。作り手の魂がこもっていないせいか、料理もまずくはないが美味くもないといったところで、いまいち楽しめない。

 このような今時の飲食店の状況を考えると、次のフレーズは、極めてチャレンジングな内容であることが分かる。

お客様と共に感動をわかちあおう。

与えられるのでなく、自分自身で考え率先して行動しよう。

 飲食店である以上、料理が美味いことは大前提だ。しかしそれと同じくらい大事なのが、この時間を、この空間で過ごして良かったという幸福感を、すべての客とスタッフが共有できること――この理念はそれを表明しているのである。

 そこには、来店した客が有名人や金持ちか、あるいは貧乏人かという差別は一切ない。マニュアル通りに杓子定規な対応をするのではなく、ひとりひとりの客の想いを察知して、どうすれば、その客に幸福なひとときを過ごしてもらえるかを瞬時に判断し、臨機応変に対応する力がスタッフに求められる。だから、くふ楽はチェーン店だが、マニュアルがない。

スタッフがいきいきと働くから、客も幸せになる

 マニュアルでない、臨機応変で心のこもったもてなし。このもてなしに感動する客の姿を見て、スタッフ自身にも「このお客様が幸福を感じてくださって良かった!」と、自分のことのように感動できる共感力が求められる。

夢、目標に向かって、全力で努力しよう。

 ひとりひとりの客と感動を共有するためには、自分自身が輝いていることが必要になる。人生に希望を見い出せず、仕事にも興味を持てぬまま、日々ダラダラと作業していてはダメなのだ。スタッフ自身が明確な将来像を描き、そこに向けて、毎日イキイキと楽しく、完全燃焼して働いて初めて、人を幸福にすることができる。

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