見たことのない日常風景を切り取る――スナップに必要な“2つの目”(2/2 ページ)

» 2008年06月19日 17時41分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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街を“切り撮る”

 講座参加者はデジイチを首から下げてソニービルの裏手に出た。坂口さんと講座スタッフの先導で、三々五々にゆっくりと8丁目方向に歩き、“感じた風景を好きなだけ撮る”。最初は何を撮ればいいのか戸惑う。だが数枚撮るうちに、風景と自分の目がだんだん合ってくる。戸惑いが消え、切り取りが楽しくなってくるのが不思議だ。

資生堂ショーウインドー(左、Cherryさん撮影)。資生堂広告塔(右、郷撮影)

 同じストリートを歩いても“人は違うものを観て、違うものを違う構図で切り取る”。左の写真はCherryさんで、資生堂の1階ショーウインドーできらめく装飾。右は私の作品で広告塔が造形のように空に浮かぶ。てっぺんで2羽の鳥が話していた。

回るエレベーターボタン(左、Cherryさん撮影)。浜崎あゆみさんのクルマ?(右、郷撮影)

 “街は引くだけではなく寄って観ると面白い”。回転するエレベーターのボタンがユーモラス(Cherryさん)。駐車する真っ赤な2シータースポーツカーの側面に“Ayuロゴ”を発見(郷)。もしかしたらご本人の車だろうか?

 

ルイ・ヴィトンの壁(Cherryさん撮影)

 ルイ・ヴィトンのロゴのビルは、表面の素材感がいい。“モノの素材や質感、テクスチャを切り取るのが写真の魅力”。「柔らかい」と「固い」、「明るい」と「暗い」、メリハリをつけて撮ると表情が出る。撮影はCherryさん、絞り優先モードでF14。

脚立と格子(郷撮影)

 「何かな?」と見上げると脚立とビルの格子がまっすぐに伸びていた。“日常風景をどんな高さから観るか”。切り取る高さと角度を意識すると、構図が斬新になる。

 「近寄る・遠ざかる」「絞り優先モードでF値を変える」「テクスチャ」「高さ」。坂口さんが講義で話されたことを撮りながら確認し、撮影途中で質問できるのも魅力だ。

 「アマチュアはたくさん撮るといいです」と指導があった。私は内心かなり撮ったと確信した。だがWebサイトアルバムのpicasaにアップすると、私は67枚、Cherryさんは168枚。う〜ん101枚の差……量であり質であり?

“見たことのない日常風景”を切り取る

 だが67枚の体験でも“目からウロコの変化”はあった。坂口さんとお別れしソニービル地下からメトロの銀座駅構内に出ると不思議な感覚があった。自分の目が、視界に入るものや風景をそのまま受け容れようとする。普段の目ではなく“自然体で受け容れる目”といおうか。

 ショーウインドウに、顔をぶつけんばかりに近づけて何かを見る女性の姿を切り取る。メトロ案内所のカウンター上に、無造作に置かれたパンフレットの不揃いさを切り取る。ありふれた風景が、まるで“見たことのない日常風景”として入ってくる。

 ありのままのことを見る目、それを切り取ろうと判断する目。2つの目を持つことが、ストリートスナップには大切なのだ。

日常の風景スナップがやがて意味を持つ

 日常風景の変化の記録はもう1つ意義がある。そして、時間がたつとその意味が分かる。

 坂口さんは都市再開発やTX開通によって“秋葉原”が“アキバ”へ変わる頃、秋葉原の老舗喫茶店・古炉奈で個展『アキハバラの肖像』を開いた(2005年)。工事中のTXのホームや駅前再開発ビルのコンクリート肌が記録され、電気街にメイドが現れ、PCパーツショップの軒先が閉店し……“秋葉原”がノスタルジーに変化する記録だ。

 私たちの写真教室の同日同時間帯に、アキバの歩行者天国で無差別殺人が起きていた。偶然にもあの“非日常”を切り取った人々がいた。その写真がネットに溢れた。あれもストリート・スナップだろうか? そうだとしても、しかも惨劇の後ならなおさら、シャッターを切るより手を合わせたいと思った。

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