原油高を吹き飛ばせ!――省エネ住宅最新事情松田雅央の時事日想

» 2008年06月10日 05時51分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

 原油価格「1バレル100ドル突破!」と世界中大騒ぎしていたのがわずか半年前。それが今や140ドルを目前とし、この先どうなるのか見当もつかない。ドイツの燃料小売価格にはエコ税が加算されているので、家計はなおさら苦しい。

ちょっとした工夫で年間100ユーロ節約

 季節外れの話題だが、先ほどのニュースで「今すぐできる家庭の暖房節約術」を紹介していた。それによると、第1はセントラルヒーティングに溜まった空気をこまめに取り除くこと。住宅の暖房は地下にボイラーを設置し各部屋の放熱器具に温水を送る方式が一般的で、放熱器具に少しずつ溜まる空気が暖房効率を落としてしまう。

 第2のポイントは放熱器具にタオルを掛けないこと。温められた空気の流れが妨げられ、これもエネルギーの無駄になる。第3はサッシの隙間を塞ぐこと。サッシの隙間から吹き込む風はロウソクの火を近付ければすぐ分り、市販の隙間止めを貼り付けるだけで効果がある。最後は暖房を少し絞って1枚多めに着ること。世界どこでもこれが基本のようだ。これらを実行するだけで年間100ユーロ(約1万6600円)の節約になるというから、馬鹿にならない。

省エネのカギは暖房・給湯

 ドイツの冬は長く厳しいため、住宅のエネルギー消費は暖房・給湯が最も大きい。この部分はまた、省エネの余地が最も大きいところでもある。

 住宅の省エネがまじめに考えられるようになったのは石油ショック以後だから、それ以前の建物は断熱効率が低い。例えば住宅面積120平方メートル、家族3人が住む一戸建ての場合。現在建てられる標準的な住宅ならば1年間に必要となる暖房・給湯エネルギーは1平方メートル当たり60kWh(キロワットアワー)程度、灯油に換算すると6リットルになる。これが、築40年の建物であれば300kWh(灯油30リットル)も珍しくないから、年間の差は一戸あたり灯油2900リットル、金額にして200ユーロ(約3万3200円)。社会全体で考えると、実は古い家屋の改修による断熱効率の向上が「費用対効果の一番高い環境対策」といえる。

壁断熱のモデル。カールスルーエ市エネルギー・水道公社のショールームにて(左)。環境住宅の二重窓。20年前は環境住宅にしかなかった二重ガラス窓も、今は普通の住宅で使われている。20年後はさらに断熱効率の高い三重窓がスタンダードになっているかもしれない(右)

基本は太陽エネルギーの利用

 省エネルギーをもう一歩進めると、今度は灯油やガスに代わるエネルギーの利用、例えば太陽熱温水器や太陽電池の設置となる。

 太陽熱温水器が活躍するのは夏。暖房は要らないのでボイラーを動かす必要はないが、バスルームやキッチンの給湯はやはり必要だ。太陽熱温水器はその需要にピッタリ当てはまり、一戸建て3人家族ならば6平方メートルの太陽熱温水器で夏の需要をまかなうことができる。地下に設置する貯温水タンクも含めた設置費用は6,000ユーロ程度(自治体によって各種補助あり)、年間にして200リットルの灯油節約となる。

 一方、太陽電池の場合は安定した電力収入が魅力だ。よく誤解されることだが、太陽電池の電力は全て電力会社へ売電し自分で使うことは決してない。「再生可能エネルギー法(EEG)」の高い価格保証があるため売電する方が得になるからで、家庭の電力はこれまで同様、電力会社から買うことになる。太陽電池を設置している建物にはDC/ACインバーター(直流・交流変換器)と売電用の電力カウンターが同時に設置され、小さいながらも立派な電力事業者だ。

 一戸建て10平方メートル(出力1kW)の太陽電池を設置する費用はおよそ約1万ユーロ。年間約900kWhのソーラー電力を生産し、電力収入はおよそ450ユーロになる。ちなみに、家庭で1人が使う電力量は1000kWhほど。

真空管型太陽熱温水器(左)。一戸建て住宅の屋根に設置された太陽電池(右)

木質ペレットを使う暖房・給湯器具。石油、ガスに代わるエネルギーとして木質燃料が注目されている。「太陽熱温水器+木質ペレット」の暖房・給湯システムを備える住宅も増えている

普及する低エネルギー住宅

 「省エネ」と「エネルギー自家生産」の次に来るのは、設計段階から省エネを徹底した「低エネルギー住宅」あるいは「省エネルギー住宅」と呼ばれるものだ。暖房・給湯に必要なエネルギーは1平方メートル当たり年間30kWh以下に抑えることができる。

 低エネルギー住宅の形状と向きは太陽エネルギー利用に最適化され、南側の窓は非常に広く、逆に北側の窓は狭い。断熱材の入った壁は分厚く、熱のロスが生じないよう建物の出っ張り(例えば出窓)や引っ込んだ部分(例えばベランダ)は一切省かれている。逆に夏場が暑くなり過ぎるので、陽射しを避けるひさしを設置したり、ツタの壁面緑化が積極的に取り入れられる。そうして出来上がった建物の外観は伝統的な建物と似ても似つかない。

環境住宅(左)。太陽エネルギー利用を徹底した実験住宅(右)

未来形はパッシブ住宅

 低エネルギー住宅の歴史はそれほど長くなく、20年ほど前に作られた低エネルギー住宅は完全に実験的なものだった。低エネルギー住宅の技術は成熟してきたが、今度は地熱利用に取り組むなど常に新しい技術に着目する発展途上の分野である。日本のように夏は湿潤・猛暑、一方、冬も比較的寒い地域の低エネルギー住宅はおのずと違った形になるが、何らかの技術があるはずだ。

 なお低エネルギー住宅の次の段階には、暖房・給湯エネルギーをほとんど消費しないパッシブ住宅がある。料理の熱、バスルームの熱、電気器具から出る熱、さらには人が発する熱まで効率よく回収してそれを利用してしまう。屋根に大型の太陽電池を敷くことにより「太陽電池で生産するエネルギーが住宅で使用するエネルギーを上回る」という究極のシステムだ。

 低エネルギー住宅やパッシブ住宅は、通常の住宅に比べて建設費が高く外観が奇抜なため周辺との調和が難しいという問題はあるが、背に腹は代えられない。今後、エネルギー価格の高騰が続けばそれらは些細な問題でしかなくなる。

職業学校の太陽エネルギー実験施設。太陽エネルギー利用が本格化する前は、施工業者にとっても太陽熱温水器と太陽電池は「未知の分野」だった。これらの普及には、知識と技術を備えた施工業者の育成が不可欠(左)。パッシブ住宅。1階から3階までは店舗と事務所で、その上に建つのが住宅。建物全体にパッシブ住宅の技術が生かされている(右)

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