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» 2008年06月05日 10時01分 UPDATE

保田隆明の時事日想:初めての不動産売買(4)――マイホーム購入の夢と理屈

新築マンションの購入・売却という経験の中で、改めて「家を買うこと」のリスクを考えてみた。理屈で考えるとデメリットばかりなのに、なぜ我々は「マイホームを買う」という行為にこれほど夢中になってしまうのだろう?

[保田隆明,Business Media 誠]
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著者プロフィール:保田隆明

外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「いちばんやさしい ファイナンスの本」「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「なぜ株式投資はもうからないのか」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 →初めての不動産売買(1)――中古と新築、どちらがいいのか?

 →初めての不動産売買(2)――新築マンションに住まずに売ることになったワケ

 →初めての不動産売買(3)――マンション売却なんて、もうこりごりだ

 →初めての不動産売買(4):本記事

 前回まで、筆者が体験した不動産売買の体験記を書いてきた。単なる体験談で終わらせず、そこから考えたことを最後にまとめて本シリーズのまとめとしたい。

“家を買う”ことの危険性

 まず個人が不動産を購入すると、以下のリスクを抱えることとなる。

1.資産ポートフォリオの大幅な偏り

 家を購入した瞬間に、あなたの手持ちの現金はほぼ頭金に消えていくだろう。それまでは株式、債券、投信、銀行預金などに分散して資産運用をしていたとすれば、バランスの取れたポートフォリオが突然不動産のみのポートフォリオに変身する。最近人気の外貨投資もできなくなる。

ay_hoda01.gif 家を買うと、資産ポートフォリオが大幅に偏る

 こうなると、自分の金融資産価値は国内の不動産市況と運命共同体である。これは資産運用の理論的に見れば、リスクが非常に高いことになる。

 またよく言われることとして、地震が起こったらおしまいだし、手抜き物件をつかまされる可能性すらある。住宅ローンも抱えることになるが、これは単にお金を借りて不動産投資をしているのと変わらないとも言える。お金を借りてまでして株式投資や投資信託の購入などの資産運用をしようという個人はあまり多くない。住宅ローンを組むということは、金を借りて不動産という商品で資産運用をしているのとまったく同じなのだが、そういう認識を持つ人は多くない。

 もっとも住宅ローンの場合は資産運用ではなく、自分の住む場所を確保するための住居賃料の代わりだと考えれば、純粋な資産運用と並列にはできない。ただ、住宅ローンには上記のような側面もあることは、知っておいたほうがいい。

2.売りたいときに売れないリスク

 これは前回のコラムでも指摘したが、不動産には売りたいときになかなか売れないリスクがある。

 株式なら、売りたいと思ったらすぐにでも株式市場で売却できる。債券の場合は株式に比べると流動性は落ちるが、それでも売りたいと証券会社に申し出てから数日ほどで売れるだろう。投信も同様だ。解約まで時間はかからない。

 しかし不動産の場合は、購入者が現れるのをただ待つしかない。しかも、購入者は不動産会社の配布するチラシやオンラインの不動産サイトからやってくるので、売却者は完全に受身なのだ。売りにくいものを買ってはいけないというのは資産運用での鉄則である。機関投資家は社内規定で新興市場の株式の売買が禁じられていることが多いが、その理由の1つは売りにくさにある。不動産は、ほかの資産運用商品に比べて明らかに売りにくい。これは大きなデメリットといえる。

3.売買手数料が高い

 不動産の売買にかかわる手数料は、3%が相場だ。新築物件の場合はこの手数料が最初から込みになっているが、それ以外の場合は売るときも買うときも3%ずつ手数料がかかる。今住んでいる場所を売却して、新たにどこかの物件を購入すれば、合計6%の手数料がかかるのだ。

 同じ不動産関連でも、REITに投資する分には手数料は安い。株式投資では、ネット証券が台頭したおかげで売買手数料はタダ同然まで下がった。国債も手数料は低い。これらの資産運用商品に比べると、不動産の売買手数料は圧倒的に高い。手数料を考えれば、通常の個人にとっては不動産の買い替えなど何度も行うべきものではなくなる。

 何度も買い換えられないのであれば、子供が大きくなっても手狭にならないような家が必要になる。生涯住めるような家を、無理をして35年ローンを抱えて購入するしかない。不動産売買の手数料の高さが、我々に多額の住宅ローンを抱えることを促している側面もあるわけだ。

不動産市場には、株式市場で起こったような変革が期待できない

 このように挙げればキリがない住宅購入のデメリット。しかし我々には、非常に強い“持ち家信仰”が存在する。庭付き一戸建てを夢見る人は、今でもきっと多いはずだ。人生の過程において、結婚後は家を買うものと頭の中にインプットされているために、上記のようなデメリットがあっても「でも仕方ないじゃん」と自分に言い聞かせることができてしまうのだ。

 また幸か不幸か、日本では株式投資も債券投資もリターンが低い。したがって、不動産の購入をせずにほかの資産運用商品で資産運用をしても大して儲からない、あるいは損をする可能性すらある。したがって、不動産がほかの資産運用商品に比べてデメリットがあるという説の説得力が弱くなってしまうのだ。

 持ち家信仰と、ほかの多くの運用商品のリターンの低さ――これらがあれば、我々は引き続き上記のようなデメリットを引きずったままで不動産購入と付き合っていくことになるのだろう。株式投資で起きたような劇的な流動性の改善や、手数料の引き下げは残念ながら起きないのだ。

 資産運用は機会ロスとの代替として捉えられるものなので、もしも今後日本の株式市場のリターンがぐんぐんと高まれば、自分の金融資産を全額不動産につぎ込むことの機会ロスを認識するということはあるかもしれない。ただそのためには、日本の株式市場のリターンが上がる必要がある。

「貯蓄から投資へ」ではなく、投資の中身の再点検へ

 「貯蓄から投資へ」が叫ばれて久しいが、それよりも我々日本人は今まで、不動産に投資しすぎていた。住宅ローンを支払い終わった世代にとっては「貯蓄から投資へ」だろうが、30代や40代の現役世代はまだ不動産投資に偏重している家庭も多いわけだ。スローガンというのは一人歩きしがちなものだが、そのスローガンが誰にとって当てはまり、そして当てはまらないのかを再認識する必要があるだろう。少なくとも30代、40代にとっては、「貯蓄から投資へ」ではなく、投資の中身の再確認へ、ということが重要なのではないかと思う。

 こんなコラムを書いておきながら、それでも不動産を購入した筆者はいったい何なんだという指摘を受けそうだ。それでもやはりマイホームには、上記のような理屈を吹き飛ばしてしまうような何かがあるのかもしれない。経済学やファイナンス理論には、人々が理屈で考えた通りの正しい行動を取るわけではない事象について研究する「行動経済学」や「行動ファイナンス」という分野があるが、個人のマイホーム欲求もその範疇に入るのではないだろうか。

 マイホームの夢と、現実的・合理的な理屈――あなたはどちらを選択するだろうか? 私はといえば、先週末もまた、懲りずに次なる購入物件を求めて物件の内見に行ってしまった。

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