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» 2008年05月26日 11時30分 UPDATE

ロサンゼルスMBA留学日記:あえて言う「新聞に未来はない」 (1/2)

若者の新聞離れ、ネットの隆盛などを背景に、「日本の新聞に未来はあるのか?」と議論されることが増えている。新聞社にはネット専門の媒体にはない強みがあるが、それでも筆者は「新聞に未来はない」と考える。新聞はどこが強く、どこが弱いのだろうか?

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 ネット全盛のいま、“紙の新聞に未来はあるのか?”といった議論がしばしばなされる。先日は大手新聞社の社会部長が、「ネットと比べ、新聞は見出しや記事の大きさからニュースの価値判断が分かる」と話した(参照リンク)。今回は、新聞業界についてMBA的知識を織り交ぜつつ分析してみよう。

 筆者の結論は、単純だ――新聞社に未来はない。新聞のどこが強くて、どこが弱いのか? なぜ、新聞のビジネスモデルは崩壊したのだろうか。

新聞社の「圧倒的取材力」

 まず最初に、大手新聞社のどこが強いか確認しておこう。多少なりと報道現場を見てきた者として言わせてもらえば、新聞社の強みはやはり「圧倒的な規模/取材力」ということになる。

 もちろん個々の記者のレベルで見ると、実は大手新聞社とネット媒体の間にそれほどの差はない。単発の記者会見に限れば、ネット媒体が優秀な記者を送り込んだ場合、新聞を上回るクオリティーの記事を書くことも可能だ。だが、ネット媒体が超えられない「壁」というものもまた存在する。

 筆者がまだ現場で記者をしていた2006年ごろ、IT業界を震撼させたのがライブドア騒動だ。当時のライブドア社長である堀江貴文氏、及び取締役の宮内亮治氏らが逮捕された事件をめぐって、あらゆるメディアが報道合戦を繰り広げた。このとき、大手新聞社の取材力に驚かされたことを覚えている。

 なにしろ容疑者の親族のもとにわざわざ記者が出かけていって、コメントを拾ってくるのである。コメントの引用はたった数行、「昔はいい子だったんですが……そういって親族はうつむいた」といった類のもの。こうした地道な取材の積み重ねが、実に厚みのある報道を生んでいた。

 ネット媒体には、こうした取材はできない。せいぜいキーパーソンをつかまえてそこに記者を差し向け、インタビューを取るぐらいのもの。コメントが取れるかどうかも分からない親族に、記者を1人張り付ける、という報道体制はリソースの面からいって無理だ。朝日新聞社の社員数は全国で5750人(2007年のデータ)、一方でネット媒体は、アイティメディアでも社員数166人(2007年12月末時点)となっている。これは記者以外も含めた全社員の数だが、要するに、これだけ人員の差がある。

 規模が大きくなれば、多少は高コスト体質になってくる。これを支えるのが、新聞社が誇る巨大な販売網と、新聞広告による収入だ。だがここに、ガタが来ているのだ。

yd_news.jpg 新聞の発行部数と世帯数の推移(単位=部、出典:日本新聞協会)

サブスクリプションモデルの限界

 メディアにはいくつかのビジネスモデルがある。加入者を募り、そこから月額料金を徴収する「サブスクリプションモデル」か、それとも広告収入に頼るか。新聞の場合は、この2つをミックスさせた方式をとっている。つまり契約者から月額3925円の購読料(朝日、読売、毎日新聞の朝夕刊セット)を徴収しつつ、同時に紙面に新聞広告を載せて、広告クライアントからもお金を取っている。

 だが昨今伝えられているとおり、若者を中心に新聞離れが進んできた。これは新聞社のビジネスモデルに二重のダメージを与える。新聞広告というのは「発行部数がこんなに多いです」というのを、1つのアピールポイントにしている。ときには“公称”の部数と実売部数に大きな乖離(かいり)があるとすら言われるが、とにかく、この発行部数が減ると単純に月額課金の売上が落ちるだけでなく、広告収入にまで悪影響が出る。

 サプライチェーンの概念を持ち出して、説明し直してみよう。新聞のビジネスモデルを考えた場合、サプライチェーンの上流の部分、つまり「記事制作力」は問題がない。もちろん新聞ジャーナリズムの質の低下を叫ぶ声もあるが、個人的には、新聞社の制作力は信頼性も含めて、まだまだ健在だと考える。

 問題は、サプライチェーンの下流だ。どうコンテンツを読者に届け、どうやって料金を徴収するか。これまで月額3925円で販売してきたものが、売れなくなってきている。コンテンツ流通の仕組みと、課金モデルに問題があるのだ。

 こう書くと、それでは新聞社の豊富なコンテンツ制作力を生かして、「完全広告モデル」にきれいさっぱりくら替えしたらよいではないか? という発想も出てくる。

 確かに各紙とも、ネット上に新聞社のニュースサイトを用意しているし、朝日・読売・日経連合による「新s(あらたにす)」というニュースポータルもできた(関連記事)。ネットでなく、あくまで紙にこだわりたいなら、駅で無料で配ってしまうという手もある。こうした手法を本格化して、新聞販売店をゼロにし、かたや広告収入を伸ばしていけば、既存の「サブスクリプション+広告モデル」の総収入を超えるのではないか?

 だが、広告モデルこそが次世代の理想的ビジネスモデルだという考えは、幻想だというしかない。理由は2つある。

yd_news1.jpg 発行部数と普及度(セット紙を2部として計算、出典:日本新聞協会)
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