初めての不動産売買(2)――新築マンションに住まずに売ることになったワケ保田隆明の時事日想

» 2008年05月22日 09時24分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「なぜ株式投資はもうからないのか」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 いよいよ不動産の購入である。何千万円もする新築マンションを、モデルルームを見るだけで購入することの理不尽さには最後まで納得行かなかったが、残念ながら新築マンションを購入しようと思えばそれが“常識”。完成の1年も前に不動産業者は購入申込を受けつけ、たくさんの人がそれに申し込み、競争率数倍、中には数十倍になってしまうのだから、売り手に超有利な話だ。

 →初めての不動産売買(1)――中古と新築、どちらがいいのか?

 →初めての不動産売買(2)――本記事

 →初めての不動産売買(3)――マンション売却なんて、もうこりごりだ

さて、問題はローンだ

 私には購入申し込み前から大きな懸念事項があった。それは、住宅ローンである。一般に会社勤めの方なら住宅ローンを借りるのも難しくないが、こちらは自営業。しかも当時は、独立してからまだ1年半しか経っておらず、自分の会社の決算は1期しか終わっていなかった。自営業者が住宅ローンを借りるには、最低3期分の会社決算が、しかも黒字決算である必要がある。黒字ではあったが、なにせ1期分の決算書しかない状態だった。

 私は2つのメガバンクに住宅ローンの申し込みをしたが、けんもほろろに断られてしまった。社歴の浅い自営業者はキチンと返済してくれるか不安だという銀行側の理由は良く分かる。確かに中には、住宅ローンとして獲得したお金を自分の事業につぎ込んでしまう人もいるかもしれない。しかし、すべて杓子定規に3期分の黒字決算で判断してしまうのもどうだろう? リスクが高いと判断すれば、高い金利で融資をすればいいわけであり、完全にゼロ回答というのは納得がいかなかった。お金を一円も借りられない、というのは精神的にこたえる。こちらの生き方を否定されたような感覚にもなる。

 ただ、民間に頼れないこういうときに頼りになるのが、公的な金融機関である。住宅金融公庫(現:住宅金融支援機構)に住宅ローンを申し込むとあっさりとOKが出た。不動産業者いわく、「公庫は税金ですからね。どんな職業のどんな所得の国民でも住宅を購入できるようにするのが目的ですから」。「政府から毎年4000億円以上の補助金を受けているから可能なんだよな。本当にそれでいいのだろうか」とも思ったが、いざ恩恵を受ける立場になるとそんな考えは棚上げにしてしまうのだから、人間とは本当にご都合主義な存在である。

 いずれにせよ、民間銀行の住宅ローンにはまだ改善の余地があるのではないか。購入する新築マンションを担保にすれば、ある程度銀行側は安全が確保されるはず。融資をしないのはむしろ、銀行にとっての機会損失である。

一度購入をキャンセル

 実は、最終的に購入した物件以外に、1つ購入をキャンセルした物件があった。それは今流行の湾岸エリアの高層マンション。レインボーブリッジが見える眺望に完全に魅せられてしまい、「東京湾の花火大会も自宅から楽しむことができる」など妄想を膨らませていたのだが、ローンに手間取っている間に頭が冷静になっていき、購入意欲が冷めてしまった。

 今、考えるとこのキャンセルの判断は正しかった。湾岸エリアのマンションが良くないというわけではなく、単純に自分たちの求めるライフスタイルと違っていたのだ。しかしモデルルームを見たときは、眺望や花火で気分が浮かれていたので判断にブレが生じていたのである。その点に関してだけは、メガバンクでローンを断られて良かったのかもしれない。

「東京湾の花火大会が自宅から見えるような高層マンション」は理想的だったが……

1年もあれば、生活状況は大きく変わる

 最終的には東急線沿線で物件を購入した。都内でも人気の沿線だから、将来売却する際も売却しやすいだろうということで選んだロケーションだが、まさか一度も住むことなく売却することになるとは当時は思いもしなかった。

 購入時に物件が完成していたならば、広い理想的な間取りの新居にウキウキで引っ越して住んだろうと思う。しかし、購入から完成まで1年あったので、その間にこちらの生活スタイルが変わってしまった。

 大きかったのは子供の保育園や私と妻の通勤経路。保育園の待機児童が山のようにいる今、いったん保育園が見つかったら、もう住まいは動かせない。そんなことは前から予想できたことでもあったが、予想と実体験では全く異なる。予想時は「なんとかなるでしょ」と思うのだが、実体験となると「こりゃ無理だ」となるわけだ。また、子供ができたら手狭になると思っていた当時の住まいも、いざ子どもが生まれてみるとそうでもなく、「あと数年は今の住まいでなんとかなりそうだ」と思うようになった。やはり不動産購入は、ライフスタイルの変化に対応できないというリスクが大きいなということを実感した。

 あとは、いざ引っ越すとなると、今の住まいの便利さを手放したくなくなってしまったのもある。不動産業者が言うには、マンション購入者の多くは半径1.5キロ以内の在住者だとのことであったが、やはり住み慣れた土地に住み続けたいと思う人が多いのであろう。

 そこで迷った末、未入居状態で売却することにした。(後編に続く)

 →初めての不動産売買(1)――中古と新築、どちらがいいのか?

 →初めての不動産売買(2)――本記事

 →初めての不動産売買(3)――マンション売却なんて、もうこりごりだ

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