外国人旅行者をFeliCaでサポート――YOKOSO! Japan Card

» 2008年05月21日 21時01分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 最近、街を歩く外国人観光客を見かけることが増えたと思わないだろうか。一見日本人かと思っても、聞こえてくる言葉で韓国人や中国人と分かることも多い。

 実際、日本を訪れる観光客は年々増加傾向にある。日本政府は2003年から「ビジット・ジャパン・キャンペーン」(参照リンク)を開始、2007年に日本を訪れた外国人旅行者は830万人に達した。当初は団体旅行客が多かったが、リピーターが増えるにつれて個人旅行へシフトしてきている。

 日本語が分からない旅行客にとって、日本は個人旅行をするのに優しい国とは言い難い。日本を訪れる外国人個人旅行客の利便性を、FeliCaカードで向上させよう――そんな実証実験が7月からスタートする。

ビジット・ジャパン・キャンペーンのWebサイト。キャッチフレーズは「YOKOSO!JAPAN(ようこそジャパン)」(左)。キャンペーン開始後外国人旅行客は順調に増えており、2008年は915万人に達すると予測(右、同Webサイトより引用)

1枚4役のFeliCaカード

日本観光協会会長の中村徹氏

 社団法人日本観光協会は5月21日、「YOKOSO! Japan CARDキャンペーン実行委員会」を組織し、「YOKOSO! Japan Card」(以下YJカード)を外国人旅行者に配布することを明らかにした。

YOKOSO!Japan Cardのサンプル

 YJカードは、FeliCaチップを内蔵した、オリジナルデザインのカードで、Suicaとnanacoを使った2種類が発行される。電子マネー、交通乗車券として使用できるほか※、旅行中に病気やケガをした場合、医療機関で利用できる。またYJカードを使った東京都内・近郊で行うポイントラリーに参加できる機能も付いている。

※交通乗車券として利用できるのはSuicaタイプのみ

 実施期間は、2008年7月19日〜9月30日。カード配布の対象となるのは、韓国・アシアナ航空と、台湾・エバー航空を利用し、個人向けパッケージ旅行商品で日本を訪れる観光客1万人。Suicaタイプ1000枚とnanacoタイプ9000枚、合計1万枚が無料配布される。デポジット料金は無料で、自分でチャージを行って利用する(ただし、Suicaタイプには1500円分があらかじめ入っている)。

 YJカードは訪日前に、旅行者の自宅へ郵送される。このとき、パスポートナンバーや性別、名前など、旅行客を本人だと特定できるデータが書き込まれる。帰国時は回収せず、そのままおみやげとして持ち帰ってもらうという。

 YJカードの機能は大きく分けて4つある(下表)。1つはnanacoまたはSuica電子マネーで買い物ができる機能。2つ目はIC乗車券としてSuicaを利用できる機能(nanacoタイプは非対応)。3つ目は、FeliCaポケット(参照記事)の機能を使って、ポイントラリーができる機能だ。期間中は東京、横浜、箱根などの観光地やショッピングゾーンに、約100カ所のリーダー/ライターが設置され、そこにYJカードをかざすとカード内にポイントをためられる。帰国時には、成田空港または羽田空港で集めたポイントに応じて抽選に参加できる。また、カードを提示すると、一部店舗では割引を受けられるサービスもある。

 4つ目は、旅行中に安心して医療機関にかかれるためのサービスだ。YJカードを持っていれば、NPO法人AMDA国際医療情報センターが紹介する約20の医療機関で治療を受けることができる。医療機関の紹介を旅行客の母国語で行うほか、初診時に自費で1000円を支払えば、治療にかかった実費を実行委員会が見舞金として負担してくれる(上限1万3000円程度。これ以上かかった場合は、差額を旅行者が医療機関で支払う)。

 「言葉が通じない外国人旅行者にとって、日本で一番困るのは病気やケガをしたとき。外国人の診察に理解のある医療機関をAMDA(国際医療情報センター)に紹介していただく」(日本観光協会会長の中村徹氏)

YJカードの4つの機能。このほか、対応店舗で提示するとクーポン割引や、帰国時に空港で抽選を受けられる(左)。対応施設についてまとめた冊子を配布(右)

AMDA国際医療情報センター理事長の小林米幸氏

 AMDA国際医療情報センターはもともと、在日外国人を対象に、無料で医療・医事電話相談を行っている団体だ。外国人の治療に協力的な医療機関を紹介したり、治療時の通訳ボランティアを行ったりもしている。センター東京では7カ国語で月300件以上、センター関西では4カ国語で月100件程度の相談を受けているが、最近では在日外国人からの相談だけでなく、外国人を受け入れる日本の医療機関からの問い合わせが増えているという。「この取り組みは、普段の活動の延長線上にあるもの。今回はYJカードを受け入れる医療機関は17からスタートするが、参加してくれる医療機関をもっと増やしていきたい」(AMDA国際医療情報センター理事長の小林米幸氏)

参加企業の目的は?

 このように、日本を訪れる外国人旅行客に便利さや安心を提供するのがYJカードの目的だが、主催者側の狙いは何だろうか?

 実証実験で検証のポイントとなるのは、ポイントラリー参加者がどの端末にタッチしたかを追うことにより、“観光客が日本でどこに行くか”を把握することにある。YJカードには旅行者のプロフィールデータも入っているので、回遊データを国や年代、性別ごとに分析し、新たな観光戦略を立案したり、訪日旅行の魅力向上のための材料として用いるという。また、空港で行う抽選時にはアンケートを行い、旅行者の声を積極的に拾っていくという。

 観光客にFeliCaカードを配布し、回遊ルートを把握するという試みは、宮崎県などでもすでに行われている手法だ。宮崎県の例でも本件と同様に、FeliCaポケットのポイント機能を利用している(参照記事)

 「FeliCaをこういうキャンペーンで使っていただくことにより、便利で楽しく、しかも安全という特徴(を生かしたサービス)を、外国からの観光客に使っていただいて、日本の観光振興に貢献できればということで参加させていただいた。またFeliCaはすでに(日本の)いろいろなところで使われているが、海外からたくさんいらっしゃる方にFeliCaを使ってもらえるということは非常に(プロモーションとして)効果的だと理解している」(ソニー業務執行役員 SVPの大塚博正氏)

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