トイレの紙の消費量は?――面接官の質問に“四苦八苦”ロサンゼルスMBA留学日記

» 2008年05月19日 15時09分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 MBA卒業生に人気の就職先として、必ず名前が挙がる「投資銀行」を前回紹介した(関連記事)。もう1つの人気就職先が「戦略コンサルティング」だ。

 ただしこの戦略コンサルティングファームに就職するとなれば、避けて通れないのが「ケース面接」だ。ケース面接とは何か、どんな回答をするのが正しいのかを紹介しよう。

“トイレットペーパー”に四苦八苦する学生たち

 そもそもケース面接とは何か。就職活動といえば書類選考のあとに面接があり、ここで志望動機や経歴などを聞かれる。そして「この局面であなたはどう考える?」という形式の質問が飛んでくることがある。これがケース面接だ。コンサル業界では、この種の面接が頻繁に行われている。

 具体的には以下のようなものだ。「日本全国の1日のトイレットペーパーの消費量を知りたい。どんな方法で推測したらよいだろうか?」

 なぜそんなくだらないことを……もしやこの面接官はトイレットペーパーマニアなのか、など邪推をしてはいけない。とにかくトイレットペーパーの消費量を考えるのである。ついでにいうと「業界に詳しい人に聞いたらいいのでは?」といった回答はNGで、面接官が知りたいのは学生がどのような思考過程を経て、課題に取り組み結論に至るかということなのだ。それが合理的で致命的な見落としがなく、できる限り具体的な数値に落とし込めているか、などを見る。だから「そんなの“ググッ”たら一発ですよ」という回答には、キツイ反撃が待っている。「では、仮にあなたが企業経営を任された場合、どうすればいいのか? 毎日ググるのですか?」。ここはやはり、自分の頭で考えなければいけないのだ。

 せっかくなので、回答例を作成してみよう。断っておくが完全に正しい回答など存在しないし、以下の説明が模範解答というわけでもない。「どんな感じか」ということだけつかんでいただきたい。

とりあえず数字をでっちあげる

 まずは、トイレットペーパーの消費量が何によって決まるかを考えてみる。疑いもなく、トイレに行く人間の数×その人間が1日にトイレにいった回数×1回に使用した紙の量、によって決まるのである。なんとなく、計算に必要なファクターが3個ぐらいある。人間を(N)、回数を(K)、紙の量を(R)として、トイレの紙の消費量=N×K×Rなどと書き付けてみる。

 日本全国で考えると、トイレに行く人間は1億2000万人いることになる。トイレに行かない(または用を足さない)人間というのは、まずいない。だからN=1億2000万としてさしつかえないだろう。しかし、トイレに頻繁に行く人間もいれば、あまり行かない人間もいる。かの有名なフードファイター、ギャル曽根さんは大量に食った後、頻繁にトイレに行くのだそうだ。かと思えば便秘の人間もいる。ここは平均をとって、1日1回としてみよう。Kは1だ。

 紙の消費量は、1.5メートルぐらいだろうか? 60センチで済ませる人もいるだろうが、その逆に大量に消費する人間もいるだろう。トイレットペーパー1ロールが、何回トイレに行くとなくなるだろうか。仮に20回とすると、1回の消費量は20分の1ロールとなる。R=20分の1ロールと仮定しよう。

 これで計算は終了。N×K×R=1億2000万×1×(20分の1)で、「600万ロールです」と答える。

 だがこれだけでは、ちょっとモデルが簡単過ぎるかもしれない。いじわるな目をした面接官が、さらに聞いてくる。「そのモデルは、レストランなどの店舗での消費量を考慮していますか?」。こうなると、少しモデルを細分化する必要が出てくる。

モデルを洗練させていく

 レストランやデパートなどでは、備え付けの紙が用意されている。このため人はつい嬉しくなって、「大盤振る舞い」の消費をするとしよう。いつもの倍使うと仮定すると、10分の1ロールだ。しかし機会としては家庭でトイレにいく可能性(頻度)の方が高く、70%家庭、30%が出先とする。ちなみに公衆便所に行けばトイレットペーパーがなかったので、ありあわせのティッシュで済ませましたとか、そういうケースをモデルに組み込んでもいい。ここでは家庭と出先(レストラン、デパートなど)だけで考える。

R =70%×(20分の1ロール)+30%×(10分の1ロール)=0.065ロール

 とする。これでモデルの中に「出先でトイレに行く率」と「出先で消費するトイレットペーパーの量」という2つのファクターが追加された。

 1億2000万人を十把ひとからげにするのはどうかという議論も、あるかもしれない。例えば年配の方はモノを大切にする傾向があり、トイレットペーパーの消費量が少ないかもしれない。一方で若者はきれい好きで、たくさんの紙を使うとしよう。男女差もあるかもしれない。女性は男性の2倍紙を使うとか、逆に赤ちゃんなら、オムツを使うがトイレットペーパーは使わないので、消費量はゼロになるとか、そういった仮説を立てて細分化していく。

 ここではざっくり、1億2000万人を「トイレ非利用層(赤ん坊など):500万人」「通常利用層:6000万人」「少量消費層:2500万人」「大量消費層(女子高生など):3000万人」と分類し、それぞれ「利用ファクター」を掛け算して数字を補正してみる。赤ん坊の利用ファクターはゼロで、大量消費層の利用ファクターは2(2倍)である。これにより、

N =500万×0+6000万×1+2500万×0.5+3000万×2=1億3250万

 と書き換えることができる。だんだんモデルが複雑化してきたが、おかげで多少の分析ができるようになっている。つまり「トイレットペーパーの消費量を増やすには、大量消費者層の使用量を増やすことが肝心(利用ファクターを2でなく3にしてみる)」とか、「いや違う、家庭での消費量を増やしてもらうような工夫が重要(20分の1=15分の1にする)」といった議論ができる。

 さらに感応度分析(さまざまな数値を入れ換えて分析すること)をして、要素ごとの変化がトータルの消費量にどれくらいの影響を与えるかチェックしてもいい。

 要は理路整然と場合分けして、数字ベースで物事をしゃべること。ここで書いた例よりも優れたモデルが、いくらでも考え出せると思う。そしてそれを、分かりやすく伝えられれば、面接に通過する可能性は高くなる。

 ともあれ、学生が首尾よくトイレットペーパーの1日の消費量を割り出したとしよう。後日、2次面接にお進みくださいとの連絡を受け取り、学生は意気揚々と会場に向かう。そこで面接官は、ニッコリ笑ってこんな質問をするのである。

 「えーとそれじゃあ、日本にどれくらいゴキブリがいるか、考えてみましょうか」

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