偽りの楽天主義は現実的ではない――『凹まない人の秘密』5分で読むビジネス書

» 2008年05月13日 11時37分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]
表紙

アル・シーバート著 『凹まない人の秘密』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)

 凹まない人々とは、心に弾力性があり、柔軟で、新しい状況に素早く適応し、変化していく環境の中で力強く成功することのできる人たちだ。

 ここで大切なのは、彼らは逆境を乗り越えるのを前提にしているということだ。まるで、普通の人なら不運と感じてしまうような状況を好運に変えてしまう魔法を知っているかのようだ。

 これまでは、私たちは自らの才覚で心の弾力性を身につけていかねばならなかった。しかし、今では「レジリエンシー心理学」という新たな学問によって、誰でもその人に合った方法で心の弾力性を簡単に身につけることができるようになった。(p.19)


2

 原題は「Resiliency Advantage」。レジリエンシー(Resiliency)とは「弾力性」を意味する。本書では「心の弾力性」を指し、これを持つ人に共通する性質を紹介し、さらに身につけるための方法を解説している。

 とはいえ、「誰でもが望めばへこまない人になれるように生まれついている」という研究成果を提示する一方で、本書は「何をし、どう考えればいいのかを手とり足とり教えるマニュアルではない」と断じている。そのスタンスは次の一節が分かりやすい。

 「テクニックを学べば何とかなるだろうと考える人がいるかもしれない。それで、少しでもそのテクニックでうまくいかないことが出てくると、すべてを投げ出してしまう。それは、缶切りを缶にぶつけながら「缶が開かない」と文句を言っているようなものだ。悪いのは缶切りではなくて、あなたなのだから」

 では、どうすればいいのか?

 まずは、序盤で掲げられている「凹まない人になるために越えるべき3つの壁」を見てみよう。

  1. いつもよい子でいるように育てられた
  2. いつも自分以外の力が自分の人生をコントロールしていると信じ込まされた
  3. ストレスという間違った概念を信じ込まされている

 これらの障害から自由になる方法が、すなわち「心の弾力性」を身につけるためのアプローチといえる。それは、「凹まない人になるための5つのステップ」として次のようにまとめられている。

レベル1 健康で幸せな状態を保つ
レベル2 問題解決のスキルを学ぶ
レベル3 自己イメージを高める
レベル4 さらに高度な弾力性のスキルを身につける
レベル5 セレンディピティの能力を身につける

 以上の5つのレベルに沿って、解説と具体的なアクションプランが示される。アクションプランの例をいくつか紹介しよう。

  • 起きたことに対して、どう反応するかは自分にかかっている。心のハンドルをしっかりと握ろう。
  • ストレスについてのデマにまどわされないように。ストレスは抽象的な物事の見方にすぎない。自分が物事をどうとらえ、どう感じるかが大事だということを忘れてはいけない。
  • 心の中で、自分が取りたいと思う反応と対応をリハーサルしてみよう。どう感じるだろうか?
  • 過去に体験した大変だったことを思い出してみよう。思いがけない幸運につながったことはないだろうか?
BOOK DATA
タイトル: 凹まない人の秘密
著者: アル・シーバート、林田レジリ浩文 翻訳
出版元: ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格: 1365円
読書環境: ×書斎でじっくり
◎カフェでまったり
△通勤でさらっと
こんな人にお勧め: へこみがちな人、あるいは今まさにへこんでいる人。

 これらは、単に読み流すだけでなく、きちんと時間をとって実際に自問するようにしたい。とはいえ非常に多くの項目があるので、自分に合ったものを選び、期間に余裕を持たせて少しずつ取り組むといいだろう。その際は、『フランクリン自伝』で紹介されている方法が参考になるはずだ。

 なお、「訳者あとがき」で紹介されているシーバート博士の次の言葉は読者にとって本書の輪郭をつかみ、内容をかみ砕いて理解する上で役に立つだろう。

 「悪いことを退け、目の前にある危機を見ないようにする偽りの楽天主義は現実的ではない。常に今、自分に、そして自分の周りに、何が起きているのか、それを観察することから始めよう」

 なお、あなた自身がへこんでいなくても、部下や家族にへこんでいる人がいるなら、本書を読むことで彼らの気持ちを理解するための取っかかりが得られるはずだ。

関連キーワード

ストレス | 心理学 | 書評


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.