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» 2008年05月12日 14時11分 UPDATE

ロサンゼルスMBA留学日記:投資銀行マンたちに学べ! 素晴らしき“ハッタリ”術

投資銀行で働く人といえば「給与が多い」「凄腕」「怪しい」といったイメージがあるかもしれない。数々の修羅場をくぐりぬけてきた彼らは、どんな話術で交渉を成功させてきたのだろうか。今回は、興味深い投資銀行マンの話を紹介しよう。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 少し前になるが、ある外資系投資銀行で活躍する上層部の人たちと話をする機会があった。彼らは年収が“億円”のケタに届くという面々だ。

 本連載でもたびたび紹介してきたように、投資銀行というのはMBA卒の学生に人気の就職先であり、タフなネゴシエーションが日常的に行われる「生き馬の目を抜く世界」だ(関連記事)。その最前線で戦ってきた投資銀行マン(インベストメントバンカー)たちの話となれば、なかなか興味深いトピックがそろっている。

電話が“ジャンプ”するんじゃないかと思った

 投資銀行では、M&Aのアドバイザリ業務を行うことがある。ある企業が身売りをするとして、企業とそれを買いたい人間(事業会社であったり、PE=プライベートエクイティであったりする)とが交渉するにあたり、どちらかの側について財務戦略的アドバイスを行うわけだ。その日も、彼は国内企業のアドバイザリとしてファイナンシャルバイヤー(純投資を目的に株式を取得し、場合によっては経営に関与することで、企業価値の向上を図る投資家)と交渉のテーブルに着いた。

 ファイナンシャルバイヤーは海外の人間だったので、英語でのミーティングとなった。ミーティングには、複数の人間が会話に参加できる電話会議システムを使った。いろいろと話を進めたが、どうも条件面で折り合わず、先方が怒り出してしまったという。ひょっとするとそれも交渉術の1つだったかもしれないが、それこそ放送禁止用語が飛び交うぐらい、怒ってしまった。

 「いや、あれはすごかったよ。机の上に、電話会議システムの端末が置いてあるだろう。あれがねえ、本当に先方が怒鳴るたびに、ジャンプするんじゃないかと思ってね」

 怒っていて早口になるから、英語も聞きとりにくくなる。慌てた国内企業の担当者が言葉をはさんだが、これもまずかった。「その担当者が『I couldn't hear you!』なんていうんだよ。これだけ大声で怒鳴っているのに『聞こえません』じゃないだろうってね(笑)」。この言葉は火に油を注ぐこととなり、先方はますます大激怒した。

 ここで、投資銀行マンは何とかその場を取り繕おうと、おもむろに言葉を発する。“――Listen. I'm gonna say something really really important.”(いいかよく聞け。これから俺が、非常に重要なことを言うから)。ここでその場は、いったんシーンとなった。相手も何を言うのか? と言葉を待っている。

 「その時点で、何を言うかまだ考えてなかったんだけどね。とりあえず言いながら、何をしゃべろうかと考えて(笑)」

 なるほど、これがリアルの交渉の場というものか。とりあえず、相手をこちらのペースに引き込む手法なのだろうが、なかなか面白い。

取引先からの強烈なプレッシャー

 別の投資銀行マンはファイナンスの計算をさんざんした後に、取引先からこのように言われた。

 「この計算に間違いはないんだろうな? いいか、もらったエクセルの計算内容に1カ所でもミスがあったら、この取引は破談にするからな」

 投資銀行が扱う案件というのは、何億、何十億円というフィーが発生する大型案件が多い。ここで言質を与えてしまって、仮に小さなミスがあれば、数億円単位の儲け話をふいにすることになるかもしれない。プレッシャーをかけられて、普通なら尻込みしてしまうだろう。

 この局面で投資銀行マンは、平然とこう言ったのだ。

 「それで結構です。1カ所もミスはありません」

 ここまで覚悟を見せられると、さすがに相手もこちらを信用してやろうという気になる。どうやら、その後取引は上手くいったようだ。こうした“ハッタリ”をかまして、もちろん失敗する場面もあるのだろうが、成功するとちょっとした武勇談になる。

会議を静まりかえらせた“ひとこと”

 ある投資銀行マンは、企業の戦略ミーティングの場で意見を求められた。戦略オプションはいくつかあるが、彼は綿密に計算した資料をもとに「プランAが最適である」と進言した。だがプランBが成功する可能性もあるため、反対派が色めきたったという。そもそも投資銀行マンとは、しょせんは外部の人間である。社外のお前に何が分かる、もしその戦略オプションが間違っていたら、お前は責任をとれるのか、というわけだ。

 もしプランAが失敗したらどうするのか? ここで、その投資銀行マンは冷静に言い放ったそうだ。

 「もし失敗したら、その時は、僕は投資銀行を辞めます」

 シーンと静まりかえる会議室。投資銀行の上層部にいる人間が、クビをかけるというわけだ。彼はそのときを振り返りながら、こう説明する。「僕はこの厳しい業界で、十何年とやっている。そのすべての経験、知識、そういったものを総動員して1つの判断を下している。それなのに、間違っていたらどうするなんて『だまらっしゃい!』だよね」。彼は業界のプロとして、自信を持って仕事をしていると強調する。

 ここで素朴な質問を投げてみた。もしも、その後プランAが失敗したら、あなたは本当に投資銀行を辞めるつもりだったのか? と。彼はニヤリと笑って、こう言った。

 「まあ多分、辞めないだろうけどね(笑)」

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