ギャンブルの“科学的な”必勝法――『図解 ツキの法則』5分で読むビジネス書

» 2008年05月08日 13時18分 公開
[斎藤健二ITmedia]
表紙

谷岡 一郎 『図解 ツキの法則』(PHP研究所刊)

 実際、「オレのやり方でプラスだ」と主張する人の多くは、回数が少なく、10回かせいぜい20〜30回の経験で主張しています。

 統計学上、試行回数が充分に大きいとき(これを「大数」といい、たとえば1000回)、その人の収支はかなり正確に予想できます。(中略)


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 ギャンブルに必勝法がある。しかも統計学的に。そんなふうに言ったら、理性的な人ならば「また変なエセ科学にだまされて……」と感じるだろう。本書を読むまでの筆者もそうだった。

 『「ギャンブルのカラクリ」を確率・統計理論で説き明かす!』という副題のとおり、どうしたらギャンブルで勝てるのかを、確率論を用いながら解説してくれるのが本書だ(著者は大学教授。ただし専門は犯罪社会学)。

 著者は、ギャンブルで勝つためにはどうしたらいいかを、“確実に負ける賭け方”を例に取り説明していく。例えば、確率統計で言う「大数の法則」によると、ギャンブルの結果はだんだん期待値に近づいていく。期待値が−20%ならば、ギャンブルをすればするほど結果は−20%に近づく。つまり1万円賭けたら8000円になって戻ってくるということだ。

 ご存じのとおりギャンブルの期待値は常にマイナスだ。宝くじしかり、競馬しかり、パチンコしかり。つまり大数の法則に従う限り、“確実に負ける”というわけである。では、どんな行動が特に負けにつながるのか。いくつか抜粋して挙げてみよう。

  • 賭けの回数を増やす――長時間プレイする、一度に何点も賭ける
  • 同じ金額を賭ける――一定額でプレイ
  • 本命狙いに徹する
  • スピードの速いゲームに賭ける
  • 実力の必要なゲームに参加する
  • 期待値の低い賭けに賭ける

 例えば賭けの回数を増やすほど大数の法則が働く。つまり期待値に近づく可能性が高まるわけで、期待値がマイナスであるギャンブルでは“負けやすい”ことになる。この期待値に近づく可能性が高まることを、分布が期待値の周辺に集まってくると説明している(分散が小さくなるという)。「同じ金額を賭ける」と、分布は期待値周辺(つまりマイナス)に集まりやすくなる。そのため、こちらも負けやすいわけだ。

 そして著者は、ギャンブルで勝つためには、

  • 分散をできるだけ大きくする
  • なるべく回数を減らす

 ことが重要だと指摘する。そのためには、大穴を狙い続け、掛け金もバラバラにし、回数を減らすのがいい。

 これを言い換えれば、期待値がマイナスのギャンブルであっても、たった1回(回数を減らす)の大穴バクチ(分散を大きくする)であれば、プラスで終わる可能性が大きくなるということになる。

期待値が同じ分布(正規分布)のグラフ。回数が少ないうちは青線で0以上になる結果の割合も大きいが、回数を増やすと大数の法則に従って分散が小さくなり、赤線のような分布になる。つまり、負ける可能性が高くなる

ギャンブルの楽しさとは?

 もちろん、どうやって勝つか? だけがギャンブルの楽しみではない。本書でも、負けることを前提としながら、ドキドキ感、攻略感などギャンブルの楽しさを取り上げている。

 いくら勝つ可能性が高まるからといって、回数を減らしてしまってはギャンブル自体の楽しさも得られない。著者は、

  1. (統計上の揺らぎに恵まれるなら)所持金を2倍に増やしたい
  2. 長くギャンブルをプレイしたい
  3. 大金を賭けて負けても、次は少額の賭けで楽しめる

 という3つの命題をクリアする方法も提案している。

ギャンブルを投資に置き換えると?

BOOK DATA
タイトル: 図解 ツキの法則
著者: 谷岡一郎
出版元: PHP研究所
価格: 1000円
読書環境: △書斎でじっくり
◎カフェでまったり
×通勤でさらっと
こんな人にお勧め: ギャンブルを例に、投資などの確率・統計を楽しく知りたい人

 実はこれらの解説は、そのまま投資にも当てはまる。期待値がマイナスなのがギャンブルなら、期待値がプラスなのが投資だからだ。期待値がプラスの場合は、できるだけ分散を小さくすることが成功のコツとなる。つまり、

  • なるべく回数を増やし
  • 一定額を賭け続け
  • 本命狙いに徹し
  • 期待値の高い賭けに賭ける
  • 分散が小さい賭けに賭ける

 わけだ。

 もちろん、投資では分散が大きな商品のほうが期待値が高くなっており、分散が小さい(例えば債券投資)ことを取るか、期待値が高い(例えば株式投資)ほうを取るかを選ぶことになる。

赤線は分散が小さいが期待値が0.5の分布例。青線は分散は大きいが期待値が1の分布例。投資するならどちらがいい?

 さて、最後にギャンブルの数字にまつわる思いこみを、本書から1つ紹介しよう。90%の確率で起こる出来事が10回連続して起きる確率はどのくらいだろう? では99%の確率で起こる出来事が10回連続で起きる確率は?

 答えは下記の囲み内に白文字で記載してみた。「90%の確率でうまくいきます!」と言われると、いつも成功するように感じるものだが、10回連続して成功する確率はこのくらいだ。こうした数字に関する思いこみも、本書を読んでいくことで自然と正されるだろう。

90%の確率で起こる出来事が10回連続して起きる確率 =約35%

99%の確率で起こる出来事が10回連続で起きる確率 =約90%


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