何がしたい? 誰に愛されたい? 何も見えてこないマックカフェ小西賢明の「お客様を想え。」(4/4 ページ)

» 2008年05月08日 07時54分 公開
[小西賢明,GLOBIS.JP]
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 そんな感想を持ったまま2007年を終え。08年スタート。そして2008年1月25日。マックカフェに新メニューが加わった。愛しのマクドナルドの鬼っ子?マックカフェ。何をしようとしているのか。早速、食べに行ってみた。

 大きく変わっていたのは「ボリューム」と「価格」。さらに「居心地」の改善である。

 まずは、「ボリューム」。以前はクロワッサンサンドのような上品なメニュー主体だったが、今回、ピザやホットドックのようなボリューム感のある商品を投入してきた。

 そのうえで、「価格」。以前は多少割高だったが、値ごろなラインに価格を落とし、レギュラーマックと同じラインに落としてきた。併せて商品を購入したお客様には「ゴールドカード」という割引クーポンを配布。レギュラーマックと同じラインの価格から、さらに100円の割引を行っている。

 さらに言うと。恵比寿ガーデンプレイス店は棒状シートのわきに椅子を置き、座りやすさの改善を行っている。あくまで恵比寿独自の取り組みでマックカフェ全体の話ではないかもしれないが、多少の改善を心掛けている。

 しかし。じゃあ、前に進んだのか。お客様に愛されるべく。そうかというと…うーん。

 新メニュー自体はそんなに図抜けて魅力的でもない。居心地の改善も「多少」の範囲。その上で、結局誰にどう愛されたいのかは、よく分からない。

 それなりに快適で安くてお腹がふくれる。それは従来のマクドナルドのコンセプトと、何がどう違うの? 「ボリューム」「安さ」のテコ入れが、何か新しい道を示したかというと、そんな気はしない。

 では少なくともターゲットはよりクリアになったのかというと、それもよく分からず。親子連れ路線を明確にしたわけでもなく(ちなみに「動物パン」は今回で終了)、より男性寄りになった商品ラインアップだが、でも店舗イメージは相変わらずのオシャレ感。やはり、何か新しい道を示したかというと、そんな気はしない。

 誰に、どう愛されたいのか。クリアにしないまま、お家芸的な「ボリューム」と「価格」のテコ入れをした。でもその行く末は不透明。残念ながら、そんな印象だけが残ったのだった。

マックカフェのその先に

 「ダイエットやアンチメタボがブームになっている一方で、大きなサイズの商品がヒットするという背反状況が起こっている」。そんな声を最近よく聞くが、この状況に最初に火をつけたのがマックの一連のメガ商品だ。

 しかし、一連の「メガマック」シリーズがこれだけ爆発的に受け入れられたのは、「メガを食べる」価値の嬉しさを、それを求める消費者にしっかり的確に送り届けられたからこそ。だからこそ一過性で終わらず、メガは定番化した。

 「えびフィレオ」をあんなにも愛くるしく仕上げ、求めるターゲットに的確に届けた。「マックグリドル」をあんなにもプチ贅沢でファンシーに仕上げ、求めるターゲットに的確に届けた。それらの努力と並行して、「メガ」をあんなにもワクワクと楽しげに仕上げ、求めるターゲットに的確に届けた。

 近年のマクドナルドは、きっちり顧客に想いを馳せ、価値を届け続けてきたと言える。その底力が、好業績にきっちり現れていると言える。しかし。唯一マックカフェからは、その底力はまったく感じられない。それがたまたまの話なのか。新業態開発故の難しさなのか。分からないが、いずれにせよ残念だったマックカフェ。ある意味学びになるので、皆さんに是非、見に行ってほしいお店である。ちなみに、割引クーポンは4月末まで有効なので、それまで頑張っているはず。

 もしかすると、プランの当初はとんがった企画だったのかもしれない。それが大企業ゆえの事情から丸く削られ、いつしか顧客を想うことから大きくかけ離れてしまったのかもしれない。しかしそうだとしても、いずれにせよ結果的に残念だったし、この先もマックカフェは迷走を重ねるのではないかという危惧ばかりが残る。

 しかしそれよりも。マクドナルドの底力をすれば、きっと次はやってくれるはず。次は皆の期待に応えるどんな新業態を、マックは見せてくれるのか。いまだ懲りないファンの1人として、マクドナルドにはマックカフェの「次」を期待したいと思います。

※参考文献:レイ・A・クロック、ロバート・アンダーソン『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』プレジデント社、2007年
※掲載の価格は東京都内における価格例

小西賢明(こにし・けんめい)

東京大学経済学部卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニー、アクセンチュア戦略グループなどの戦略系コンサルティングファームにおいて、様々な業界企業に対しての多岐に渡る経営課題の解決に従事。03年より独立。ワイズ・ストラテジック・パートナーズ代表となる。

現在はマーケティング分野・新規事業分野を中心に、プロジェクト支援や企業アドバイザーなどのコンサルティング業務を展開。と同時に、ビジネスリーダー育成のための研修・講演も多く手がける。(主には、企業内大学における自社課題解決や、論理思考・経営戦略・マーケティング・ビジネスプラン・ビジネスプレゼンテーション等)。グロービスのパートナー・ファカルティでもある。


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