何がしたい? 誰に愛されたい? 何も見えてこないマックカフェ小西賢明の「お客様を想え。」(3/4 ページ)

» 2008年05月08日 07時54分 公開
[小西賢明,GLOBIS.JP]

 さらに言うと。例えば、東京・丸の内にある東京海上ビルディングの地下にある店舗。ここは既に、同ビルに勤務するビジネスパーソンの皆様が三々五々と集まって喫煙する喫茶スペース・くつろぎスペースになってしまっており、いわゆる「カフェ」という言葉が馴染む状況にはない。当ビルで勤務する友人も、「正直、なんでこんなところにこんなお店があるのか、不思議でしょうがない」との声を聞かせてくれる。

 かろうじて想定できるターゲットは、お母さんとお子さんという親子連れ。しかし、既存の「マクドナルド」ではなく「マックカフェ」を選ぶ親子連れ、何がその決定要因になるのか。「カフェ」だから「オシャレ」? いやあ、本来の競合となりそうなスタバなどと比べると、圧倒的に、それほどオシャレでもない。残念ながら。

 軽めのベーカリーもボリューム感が足りず、親子連れとは言え、お腹を満たすにはマクドナルドと比べ割高になる予感。しかもそもそも、お母さんとお子さんにとって居心地が良い店内に仕上がっているわけでは、全くない。例えば旗艦店舗である恵比寿ガーデンプレイス店は席間が狭すぎて荷物も上着も置けず。座り心地の良くない椅子(椅子ではなく背もたれのない棒状シート)には子供は座れないし、長時間滞在はできない。さらに分煙にはなっているが完全禁煙でないのも中途半端。サービスの観点からも、商品提供までにカウンターで顧客を待たせる時間は、通常のマクドナルドよりもはるかに長い。「オシャレ」でも「安く」も「居心地良く」もなく、かつ「早く」もない。本当に、誰にどう愛されたいのか。よく分からない。

 誰に愛されたいのか、分からず。何がコアなコンセプトか、分からず。ただ「カフェ」という言葉だけが、独り歩き。そんな、マックカフェ。一体どうしたいの?

 気持ちは分かるが。ビジネスとしては、「STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)レベルの詰めが弱い」という印象ばかりが残る。

 前述の原田CEOの談話に戻ると、ターゲットは「キッズ、ファミリー、若い世代」とあるが、この時点で新業態を導入するにしてはターゲティングとしてあいまいすぎる。

 かつ、コンセプトが全く見えない。何を価値としてずば抜けたいのか。そして既存のマクドナルド店舗とどう住み分けたいのか。まったく見えない。まったく。

 施策(4P、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(場所)」「Promotion(プロモーション)」)レベルでいろいろ書いたが、そこから見えてくることは、ターゲット・コンセプトといった、施策の上層にあるべきSTPレベルで誰にどう愛されたいのかが全く見えてこないということ。まず何よりも気になるのは、ここである。

 さらに言うと。「独りよがりなビジネスに過ぎる」という印象も、強く強く残る。

 高効率化・ターゲット拡張・新しいビジネススタイルの実現という、経営課題の一掃。それをやりたいのは、伝わってくる。マックカフェを特効薬として使えないか。そんな気持ちが、そこここに見てとれる。

 しかし、それが全体感を持って実現できていない。企業としての課題解決が先に立ってしまい、そこを気にしてばかりでお客様は不在。顧客不在のまま自己都合でビジネスを描いているように見えると、言わざるを得ない。これでは。愛されるはずも、ない。

 「組織として実現したい」課題解決と、「顧客に求められる」事業創造を両立させうるか。両立させられなければ、ビジネスは独りよがりなものになってしまう。「ちょっと素敵っぽいコンセプトで経営課題一層を狙ったが、チープで安易な発想が雑然と盛り込まれただけになってしまった」。傍から見ると、そうとしか見えないマックカフェ。残念。残念ですが、徹底して顧客を想う姿は、マックカフェからは見えてきませんでした。

 僕らがマックに期待する「カフェ」は、そういうものではないのだが。マックファンの期待の高さが、初日に30分の行列が生まれた事実で示されているだけに、物哀しさがより強く残る。徹底して、揺るぎなく、顧客を想い、見据え、価値を詰めてほしかった。2007年のマクドナルドで、唯一とても残念だったマックカフェでした。

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