“時計回り”の風力発電ライトが、地球へ善き心をもたらす郷好文の“うふふ”マーケティング

» 2008年05月01日 20時30分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

 マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 ひょっとしたら、風とLEDライトの神秘的な結合が、世界中の風景を変えるかもしれない。風景だけでなく、人の中の邪悪な心を消し去るかもしれない。邪悪な心退治までできなくても、電力消費は減り地球が癒される――そんな可能性を秘めているのが、7年の歳月を投じて開発された「Firewinder」(ファイアウィンダー)である。

風に回るFirewinder

風の力でスパイラルに回る灯り

 Firewinderは、英国のベンチャー企業Firewinderが2008年夏に発売する屋外ライトだ。電力を必要とせず、風の力で回り、光る。価格は99ポンド(約2万円)で予約受付中。販売体制が整えば世界各国で店頭販売されるはずだ。

 風力発電といえば、塔の突端に付けたタービンがブンブンと回る、あの無機質なプロペラが思い浮かぶ人が多いだろう。しかしFirewinderはちょっと違う。床屋の店頭にある、赤・青・白のサインポールのように、風が吹けばスパイラルに回り、ブレードに付けられたLEDのランプが光の環を作る。そのイルミネーションの怪しい光線は、見る者を惹きつける。どのように光るのか静止画では分かりにくいので、開発元が投稿した動画も見てほしい。

何となく、床屋のサインポールを思い出す

 この灯りが街中至るところにあると想像すると、あの名作SF映画『ブレードランナー』の舞台、チャイナタウンをさまよう錯覚に陥りそうだ。門灯としても、またテラスライトやガーデンライトという用途にもいい。風があれば回るし、なければ回らない。まさに風まかせな“風とともに呼吸する灯り”。

 スペックをまとめよう。風力発電機構を内蔵し、らせん状のブレードにセットされた14個のLEDは、風速毎秒5メートル※くらいの風から光り始め、理想的な風速は8〜11メートル。風速30m超の強風だと200m先から視認できる。高さは65センチメートル、直径18センチメートル、重量は800グラム。設置するには、風の通り道を選び、ぶらさげるか上下をブラケットで留める。

※初稿掲載時、「ブレードの回転中に指を入れるなどの危険もあるので、手の届かないところに設置するのが妥当だろう。」と記しましたが、これは誤解でした。Firewinderは回転の早遅にかかわらず、手ですみやかに停止することができ、猫や犬が当たっても大丈夫だそうです。お詫びと共に訂正させていただきます。(5月4日追記)

発明家へ、本邦初のインタビュー

 エコフレンドリーとはいえ、光るか光らないかも明るさも、まったく風まかせ。だが、その光る姿は神秘的な魅力がある。これは実用品なのか、それとも装飾品なのか? 製品の若き発明家トム・ロートン氏に疑問をぶつけてみた。

トム・ロートン氏

――この製品の魅力は?

トム・ロートン Firewinderが“オリジナル・ウィンドライト”であることだね。風が吹くたびに、見る人は"Wow!"って思う。光の束がまとまって、強くなればなるほど魅惑される。音のない風力花火ショー、静かにゆらりと燃えるロウソクの灯りともいえるな。風が光になるなんて凄いだろう? Firewinderは風の変化に敏感に反応して、風とともに呼吸をする灯りさ。

――この製品のターゲット顧客は?

トム Firewinderは誰にもアピールする。(風の吹かない屋内では使えないので)アウトドアで呼吸をしたいと思う人なら、誰でもFirewinderのお客さまだ。ルーフガーデンやバルコニーのある家、高層マンションのベランダ、海浜のリゾートやガーデン、ボートやパゴダ(仏塔)にもいい。

 商業利用ももちろん展開するよ。ホテル、ビーチバー、ゴルフコース、別荘、海浜の小径、山小屋、スキーリゾート、不動産開発業者、イベントやフェスティバル主催企業、パブリックアート団体……まだまだたくさんある。

――この製品開発のブレイクスルーはどこに?

トム Firewinderのエレガントでシンプルな視覚的効果の裏には、前例のないモノづくりの苦労がごまんと詰まっているよ。発電装置やブレードのエアロダイナミック形状を決めるまで、数えきれないブレイクスルーが必要だった。構造も素材も、まったくユニークなものだ。

 

 研究開発にはトータルで7年間かかり、僕はそのすべてに関わった。プロトタイプは20個以上製作した。開発費は25万ポンド(約4000万円)を軽く超えたよ。知的資産を保護する費用や国際的な展開に見合う体制づくりも必要だ。

吸引力にはチカラを、想像力にはアカリを!

 「用途として、キャンプでも使えるのでは?」という質問の答えが「数えきれないほどの商業利用」だった。景観の問題はあるが、山道も田舎道も湖のまわりも照らせる。確かに、実際には商業利用がメインになるのではないかと感じた。用途も多様なら広がりも大きい製品だ。

 英国人の発明家といえば、掃除機ダイソン(参照記事)の発明家、ジェームス・ダイソン氏が有名。「あなたは未来のダイソンですか?」とぶしつけな質問を投げかけた。トムの答えはこうだ。

 「そうだね、僕は未来のダイソンさ。でも僕の発明は床をキレイにする市場よりも、もっとエキサイティングな、イマジネーションをかきたてる市場をつかみたいね」

 “吸引力にチカラを!”VS“想像力にアカリを!”だ。ちなみにダイソンとFirewinderは同じ町にある。トムはダイソン氏とは面識はないが、ゆきつけのパブはダイソンのエンジニアでいっぱいなのだそう。発明家の血は空気感染するのか、それともアルコール議論から生まれるのだろうか。

時計回りでなくてはならない理由

発売予定のパッケージ

 開発も佳境の2006年、トムはインドネシアのジャワ島を旅した。ボロブドゥール寺院で仏教の師に出会い、自分の製品アイデアを説明した。師は深く興味を示したが、1つだけ改良のアドバイスをした。それはブレードの回転方向だった。

 「善き心を呼び起こすため、時計回りにしなさい」

 帰国後、トムは回転方向を変え、その日からFirewinderは時計回りになった。不思議なことに、時計と逆回りだと予想外の過電流(大きすぎる電流)が発生する。「それは悪い魂を発生させているわけじゃない」とトムは言うが……時計回りの理由は仏教の教えだ。

 「Firewinderはいつも時計回りで善き心を呼び起こす。仏教徒が手にするマニ車のようにね」(トム)

 マニ車(くるま)とは、仏教徒が真言を唱えながら手で回す用具である。時に邪悪な方向に回る世界を、正しい方向に回るよう唱えるのだ。その教えもあり、トムの夢は「Firewinderを携えてブータン王国のヒマラヤ聖地を歩く」ことだという。この風力発電の光が、地球を少しでも救う力になればと願う。果たしてそうなるのか? 彼は深い言葉で答えてくれた。

 "Be the change you want to see in the world."(この世界の内に望む変化になりなさい)

 これは、マハトマ・ガンジーの言葉だ。あと数カ月で、その変化の答えが分かる。

(編集部より:トム・ロートン氏へのインタビュー全文は、郷さんのブログに掲載されています。英語でインタビューを読みたい方は、併せてどうぞ!)

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