数字には表と裏がある――GW中の旅行消費から景気を読むと?保田隆明の時事日想

» 2008年05月01日 10時57分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

 先日、ゴールデンウィーク(以下、GW)中の旅行消費について調べる機会があった。

 世の中では先週金曜日夜から来週火曜日までをGWと呼んでいるようで、すでに5月1日の今日GW後半なのだという。しかしカレンダー通りに仕事をしている身としては、29日に単発の休日があっただけなので、“GW後半に突入した”と言われてもまったくピンと来ない。電車に乗ってもそれほど空いているわけではないし、今年はカレンダー通りに仕事をしている人が多いのではないだろうか。

 昨年までは数年続けてGWの日並びが良かったため、10連休程度の休みになる人も多かった。それを受けて旅行需要は旺盛だったが、今年は日並びが良くないため、海外旅行に関しては前年比で15%弱ダウンしているという。

海外旅行需要は前年比10%以上のマイナス、実は国内旅行が圧倒的シェア

 GW中の旅行といえば、毎年テレビニュースで映し出される空港の出国ラッシュと帰国ラッシュのようすを思い出す。あのイメージが強いため、GW中の旅行というと海外旅行を思い浮かべる人が多いだろう。それだけに、GW中の海外旅行需要が前年比15%弱のダウンと聞けば、いくら日並びによるマイナスがあるとは言え、やはり景気の雲行きが怪しさを増す中で消費力が減退してきているんだな、と思うはずだ。

 しかし実際には、毎年GW中に旅行関連で消費される金額、約1兆円弱のうち海外旅行が占めるのは1000億円強で、ほとんどは国内旅行で占められている。GW中の海外旅行需要が減っても、全体に与える影響はさほど大きくないのだ。したがって、GW中の海外旅行の需要のみを取り上げて消費力が減退していると断定するのは危険ということになる。実際、過去の日並びの悪い年を見ても、GW中の海外旅行需要が前年比10%以上のダウンとなっている年は珍しくない。

数字やデータは先入観次第で解釈が大きく変わる

 では、GW中の旅行需要から判断するに、景気は悪くなっていないのだろうか? 国内旅行について検証してみると、前年比でほぼトントンというところ。当の旅行業界の人にインタビューしてみると、「日並びが悪いのに、国内旅行の需要が前年比ほとんど変わらないのだから、むしろ需要は旺盛」と言う。

 しかし、本当にそうなのだろうか? 日並びが悪いために、従来の海外組の一部が今年は国内に切り替えているだろうことを考えれば、前年比トントンというのは実質マイナスと考えるべきではないだろうか。そう考えると、やはり消費は減退しているということになりそうだ。ただその理由は、海外旅行が減退しているからではなく、国内旅行が実質マイナスだからという理由が大きなものとなるのである。

 旅行業界の人にしてみれば、景気の先行きに不安を感じる状況だからこそ、マイナスな内容の発言は控え、むしろ人々の消費を喚起するような前向きなメッセージを発したいと思うのは当然だ。ただ、頭の中が完全に「ポジティブなことを言おう」という思いで支配されているので、出てきた数字を自分にとって都合にいいように解釈してメッセージを発信してしまうことになる。

 これはあくまでも一例にすぎない。しかし私たちは普段から、様々なデータや数字を扱うとき、自分のイメージや先入観をもとにそれらの数字を理解しがちである。

 昨今、今後の景気はどうなるのか、という関心の高まりとともに、日本、米国、そして世界の主要地域の経済指標に大きな注目が集まっている。それらをどう解釈するかが重要になるのだが、数字やデータを受ける側も発信する側も、何らかのバイアスがかかった上でそれらを扱っているということを理解しておく必要がある。何かおかしいなと思ったなら、情報発信者に何らかのバイアスがかかっていると考えるべきである。

政府は日本の景気見通しについて、横ばいと考えているようであるが、本当に横ばいという判断で正しいのか。最近出てくる各種データを見ていると、そう思わざるを得ない。

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