FeliCaはどうやって作られるのか――豊里事業所・工場見学記(2/3 ページ)

» 2008年04月23日 16時30分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

「クオリティ」と「セキュリティ」はトップクラス

 ソニーは国内外に多くの生産拠点を持っているが、その中でも豊里事業所は特に「クオリティ」と「セキュリティ」の高さに優位性がある。

 まずクオリティの面では、製造品質の高さに加え、検査機器(ハードウェア)と人間の目(ソフトウェア)の両方による検査体制の充実を重視、全数チェックを前提にしている。豊里事業所は以前から放送業界向けのベータカムカセットを製造していたこともあり、「プロの世界では(品質における)ミスは絶対に許されない」と、従業員の意識が高かったのだという。この姿勢が、品質が最重要視されるFeliCaカード製造にも生かされている。

 一方、セキュリティ面では、FeliCa製造ラインがある第3工場は6段階のセキュリティレベルで区画が分けられており、工場内の入退出はID認証で管理されている。最重要区画は、IDカード認証と生体認証が組み合わされており、2人同時でないと入室・退出のどちらもできないという徹底ぶりだ。さらに第3工場を囲うフェンスには複数方式の侵入者センサーが設置され、施設内外のあらゆるところに監視カメラが置かれている。セキュリティは数あるソニー施設の中でもトップクラスで、国際的な審査基準にも十分に合格できるレベルだという。

生産と検査が同時進行、自動化が進んだライン

 厳重なセキュリティゲートをくぐり、第3工場内に踏み入れると、そこは温度・湿度が完全に管理された世界。静電気防止や防塵のため、専用服を着ての入室になる。

静電気防止用の専用服を着て工場内へ(左)FeliCaカードを製造する第3工場内のセキュリティは厳重だ。IDカードによる認証のほか、最重要区画では生体認証も組み合わされている。さらに施設内には無数の監視カメラが設置されている(右)

 工場内は意外とこぢんまりしており、人の行き来も少ない。製造ラインは自動化されており、特に撮影禁止の最新型設備では、アンテナやIC実装、周波数調整、シート貼り止めまでFeliCaカード基部の製造工程が一体化されているためとてもコンパクトだった。旧設備も、アンテナや回路の貼り付け、IC実装といった各工程が専用設備にまとめられており、効率は悪くない印象だ。

 下の写真(左側)は、FeliCaカードの基部となる透明シートに、FeliCa ICチップを実装しているようすだ。チップを付けると即座に左から検査ユニットのアームが伸び、チップを付けたところを機械で検査する。チップ実装と検査が交互に行われていくのだ。こうしてシート状の基板が完成すると、自動的に切り抜かれ、外装ラミネート工程に回される。この段階でコンデンサーによる周波数調整も含めて、FeliCaカードの基本的なハードウェアは完成している。

FeliCaカードの基部となるシートにFeliCa ICチップを実装するようす。青い光を放つのは検査ユニットで、チップ実装と検査が並行に行われていく。写真は旧型設備だが、作業スピードは速い(左)。外装ラミネート後のFeliCaカード。ラミネート方法は用途に応じて2種類ある。この後、カードとして1枚ごとに打ち抜かれる(右)

 このようにFeliCaカードの製造は自動化が進んでいるが、それでもノウハウやチューニングが必要な工程が多々あるという。例えば、FeliCaカードの周波数の調整は、外装ラミネート後に印刷される表面デザインによって異なる。これは「塗料の色によって電波特性が変わるので、安定した通信を実現するためには製造段階での調整が欠かせない」(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス、フェリカカード事業室担当部長の石森孝行氏)からだ。また、表面印刷を書き換える必要がある定期券用のFeliCaカードと通常のFeliCaカードでは、外装ラミネート用の設備そのものが異なるなど、製造ラインは“技術とノウハウの塊”になっている。

 また、もう1つのFeliCaカード製造の特徴は、各工程における検査項目の多さだろう。前述の通り、FeliCaカードは全数検査を基本としているが、さらに機械的な検査は製造工程ごとに行っている。1つ作業するたびにカメラやセンサー群を使った検査が行われており、製造不良があれば各工程で即座に排除される。さらに工程によっては、人間による抜き取り検査もあり、“品質重視”の徹底ぶりは改めて驚かされるものだった。

 さらに驚いたのが、外装ラミネート加工・打ち抜き後の検査だ。ここでは機械による検査の後、わざとカードに過負荷となる電磁波を照射して耐性や信頼性チェックを行う。むろん、製品が劣化しないように計算された範囲内での過負荷試験ではあるが、そのようすはノートPCの「拷問(Torture)テスト」のようだ。

 そして最終検査は、人間による目視検査。一人前になるのに1年はかかるという検査員のチェックはまさに“プロの仕事”で、センサーやカメラでは検知できないような、わずかな異常も見逃さない。できあがったカードが少し反っているとか、少しキズがあるといった場合は、熟練者の目がもっとも確実なのだという。これらの検査が、豊里事業所から出荷されるすべてのFeliCaカードについて行われている。

ICチップの機能を検査する工程。2本のアームが互い違いに、カードを左から右へ動かしながら送っていく(左)。最終検査は「人間の目」で行う。検査員は一人前になるのに1年はかかるというほど、厳しいもの。ちなみに左手前の女性が最も経験が長く、FeliCaの量産が始まった2000年から検査を担当しているという(右)

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