米国で波紋を呼ぶ「YouTube離婚ビデオ」騒動ロサンゼルスMBA留学日記

» 2008年04月21日 16時36分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 「YouTube Divorce Video」(YouTube離婚ビデオ)が騒がしくなっている。Tricia Walsh Smith(トリシア・ウォルシュ・スミス)という1人の女性が、離婚でもめている夫を批判するビデオを、ネット上に投稿したのだ(関連リンク)

(出展:YouTube)

 動画は記事を執筆している時点(4月16日)で、約180万回再生されている。この再生回数の多さは、動画内容の“過激さ”を考えればもっともなことだ。彼女の夫はブロードウェイ・シアターの所有者であり、大富豪のPhilip Smith氏(フィリップス・スミス)だという。そして彼女は女優であり劇作家で、元夫よりも25歳ほど若い。離婚に伴い豪邸からの立ち退きを求められてしまい、腹いせに元夫をさんざんにこき下ろす動画を投稿したという次第だ。まるでメロドラマを見るような展開に、複数のメディアがこのニュースを取り上げている。

 そもそも、Triciaさんのキャラクターが強烈だ。あるメディアは「トロフィーワイフ」と表現しているが、これは金持ちの男性が立身出世したあとに手に入れる、若くて美人の妻のこと。Triciaさんは確かに女優をしていたというだけあって、美人であり、いかにも気が強そうな気配が漂っている。お金への執着が強いようで、「夫が死亡した際は、1年ごとに5000万円(原文はhalf million pension)が支給される約束だった。これがどうなるのか、元夫に問いただした」などと語っている。

 約6分の動画の中で、彼女はひとしきり不満をぶちまける。その後室内を歩き回りアルバムを手に取ると、親族などの写真を公開。そのうちの1人を指差して、「彼女は私のお金を狙っているの。“bad bad bad person!”」と叫ぶなど、やりたい放題である。さらには、Smith氏との性生活にまで言及。「夫とはセックスをしたことがない。彼は高血圧(心臓に負荷がかかるからセックスできない)だと言っていたけれど、私は夫がバイアグラやポルノ、コンドームを持っているのを見つけたわ」とコメント。なぜTriciaさんと性交渉がなかったのかは不明だが、とにかくこれでは、プライバシーも何もあったものではない。

 動画の冒頭にはごていねいにタイトルが入り、ラストには「哀れで、か弱いTriciaは立ち退くことになるのだろうか? Stay Tuned(続きを待て)」といった文言が入るなど、ドラマのような仕立てになっている。「これはたちの悪い冗談か」と思ったが、どうやら本当に女性が元夫を批判した動画のようだ。

ネット上で「公開批判」の時代、到来か

 YouTubeはこれまで、いろいろな使い方をされてきた。単純にテレビ番組を録画して、違法にアップロードするといった使い方もあるが、ほかにも素人が楽器を演奏したり、ダンスを披露したり、ハプニング映像を公開したり、愉快なコンテンツが数多く発信されてきた。

 より社会的な使われ方もある。ニコニコ動画やYouTubeを通じて、特定の国家や団体、組織を批判するアジテーション的な動画が出回ることがある。米国で少年が銃殺された際には、その両親がYouTubeに目撃情報の提供を呼びかける動画をアップしたこともあった。最近でいうと、YouTubeは大統領選にも利用されている(関連記事)

 今回取り上げた動画の場合は、「オープンな場での身内批判」「社会的ステータスはあるものの、プライベートの情報暴露」といった要素が詰まっている。批判された側にとっては迷惑な話だが、これはこれで興味深い。

 変な話だが、他人がもめているのを見るのは一種の面白さがある。騒動の渦中にいる人間が、「あのとき実はこんなことがあったんだ」とネット動画で激白したり、「これが証拠だ」と写真や映像を持ち出して世間にアピールするようなら、これまでにない形で楽しむことができる。

 もちろんそれは、危うさをはらんだ文化でもある。口論の末、カッとなって「お前ふざけるなよ」と叫んだ瞬間、その姿を録画されYouTubeに公開される可能性もある。あるいは、企業がクレーマーに対応していて、あまりにしつこい追求に「もう弊社の製品を買っていただかなくて結構です」と口走り、それをYouTubeにアップされたらどうなるか。過去にライブドアが、イーバンクから「脅迫を受けた」として、特定の音源を公開したような事例もある(関連記事)

 身内での、限られた関係性の中でのトラブルだと思っていたものが、いつの間にか衆目の注目する“オープンな争い”になってしまう。そんな社会が良いのか悪いのか。また、この方向に世間が向かうのかどうか。とりあえず今のところ、Smith氏はこの件に関して目立った対抗措置はとっていないようだ。

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