日本の伝統を伝え、ビジネスを改革する――街おこしのキーマンは「神社経営の変革者」(後編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(2/4 ページ)

» 2008年04月19日 13時43分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

レストランウェディングとのアライアンスで大ブレイク

 彼の神社革新の第2弾は、結婚式だった。日本には神前式という伝統的な挙式の方法があるが、キリスト教徒でもないのに教会での挙式を好むカップルは多い。また最近では、「人前式」(参照記事)も人気が高まっている。

 神前式が行われなくなったのは、その良さが知られていないからではないか――そう考えた彼は、まずホテルと提携する道を模索した。大型ホテルでは施設が整っているので「神前式+結婚披露宴」という組み合わせが行われている。その神前式の部分を、ホテルあるいは古式ゆかしい赤坂氷川神社で実施するという選択肢をカップルのために用意してみてはどうか、という企画を考えたのだ。近隣の全日空ホテルや恵比寿のウェスティンホテルなどに提案してみたが、これは不調に終った。

 そこで目を付けたのが、ちょうど人気が高まってきたレストランウェディングだ。レストランには、披露宴の機能はあっても、挙式の機能はないのが一般的。そこで「赤坂氷川神社で挙式し、披露宴をレストランで行えるようにしては」と提案したところ、これがハマッた。地元・赤坂きっての名レストランである「Wakiya−笑美茶楼」「ポワソン六三郎」などが早速、実行に移してくれたのだ。

 これがヒットして、レストランウェディングを事業化する多数のレストランが、恵川氏のところにアライアンスを求めてやってきた。その成果は実に目覚ましく、それまで年間2〜3件しかなかった赤坂氷川神社での神前式が、2004年には20件、2005年は101件、2006年は120件、2007年には実に200件近くに達し、キャパシティの限界にまで達したのである。

 またこの間恵川氏は、元・日販ネット事業部の強みを生かし、SEO対策まで念入りに行ったWebページを立ち上げた。その結果、海外からの引き合いが急増した。

神前式のようす。雅楽の流れる中、新郎新婦が本殿へ入場する(左)神前式についてまとめられた赤坂氷川神社のWebページ。提携レストランの一覧も(右)

粋な大人の社交場としての例大祭を実現

 恵川氏は、毎年9月に行われる例大祭の革新も手がけている。普通、神社の例大祭といえば、テキ屋と呼ばれる人々が商う焼きソバの屋台とか、ワタ飴の屋台とかが軒を連ねているのが一般的だ。しかし恵川氏は、粋な大人の社交場としての赤坂の伝統を踏まえ、現代の都市生活者が大いに楽しめるものへと“祭りの屋台”を変貌させたのである。

 レストランウェディングでアライアンスを組んだ赤坂が誇る一流レストランに、格安で屋台を出してもらうというアイデアだった。我々一般生活者にとっては憧れの存在ではあるが、敷居が高く滅多に行く機会のないお店の料理が、祭りの屋台で食べられるのだ。しかも、1品あたり400円、しかも3品なら1000円という破格の安さ。加えて、盆踊りの選曲に「アンパンマン音頭」を入れるなど、現代の若年層にも配慮したものへと変えた。

 効果は絶大だった。大評判を呼んで、例大祭の来場者数は激増したのである。赤坂氷川神社の例大祭は今や、毎年恒例の赤坂の人気行事となっている。

「前例がない」という抵抗を突破する、2つのアプローチ

 恵川氏の改革はそれだけには留まらなかった。今、もっとも力を入れている新しい取り組みが、前編で詳述した江戸型山車の約100年ぶりの復活巡行だ(参照記事)

赤坂サカスから赤坂氷川神社へ、江戸型山車を引くようす。復路は天気のよい日曜日で、大盛況となった

 神社であれ、町会であれ、歴史に裏打ちされた組織には、その組織に固有の組織慣性が働くものだ。変化を嫌い、すべてにおいて現状延長を指向する。当然、“非連続・現状否定型”の革新には、「前例がない」という理由で強い組織抵抗を示す。それに対して恵川氏は、2つのアプローチでその抵抗を乗り越え、改革を実現してきた。

 その2つとは、Win-Winの関係構築と、Swan Cycle型のアプローチである。

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