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» 2008年04月17日 10時32分 UPDATE

保田隆明の時事日想:日本に期待しすぎだよ。失うモノはないんだから――Jパワー株買い増し問題

経済産業省と財務省は、英投資ファンドのTCIに対し、電源開発(Jパワー)株の追加取得計画を中止するよう勧告した。規制反対派からは海外からの投資を阻害すると懸念の声が上がっているが、そもそもそんな心配は不要なのかもしれない。なぜなら……。

[保田隆明,Business Media 誠]
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著者プロフィール:保田隆明

外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「なぜ株式投資はもうからないのか」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


電源開発の株価チャート電源開発の株価チャート(1年:縦軸の単位は円)

 英国の投資ファンドであるTCI(ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド)が、電源開発(J-パワー)の株式を追加取得して保有割合を20%まで伸ばしたいとしている。この問題について、日本政府は、TCIに株式の買い増しをしてはならないという勧告を行うと発表した。

 TCIは現在、電源開発の9.9%の株式を保有する筆頭株主だ。政府のこの方針について、見解は大きく2つに分かれる。1つは「電力というインフラ産業を担う企業の株式を、ある特定の海外投資家が大量に取得することは日本国にとってよろしくない」という規制賛成派。もう1つは「TCIへの買い増し中止勧告は外資規制であり、海外から日本への対内直接投資の弊害となる」と懸念する規制反対派である。どちらの意見が正しいのかという議論はさておき、本コラムでは財務大臣、経済産業大臣の談話について触れたい。

海外からの対内直接投資は引き続き促進とのことだが……

 4月16日、額賀福志郎財務相・甘利明経産相は以下の談話を発表した。

財務大臣・経済産業大臣談話〜日本政府の対日直接投資促進の姿勢は不変〜

 1.ザ・チルドレンズ・インベストメント・マスターファンド(TCI)から電源開発株式会社の株式取得について届出がなされた件に関して、本日、財務大臣及び経済産業大臣は、電気の安定供給及び原子力・核燃料サイクルに関する我が国の政策に影響を与え、公の秩序の維持を妨げるおそれがあると認められたので、外国為替及び外国貿易法(外為法)第27条第5項の規定に基づき、TCIに対し当該届出に係る対内直接投資の中止を勧告した。

(中略)

 4.言うまでもなく、対内直接投資は、新たな技術や経営ノウハウの導入等を通じて我が国及び地域の経済を活性化し、雇用機会の増大にもつながるものであり、投資の自由化を堅持しその積極的な促進を図ることは、我が国の政策の基本方針である。このことは、福田総理がダボス会議であらためて表明したところである。

 日本政府としては、平成18年3月に、2010年までに対日直接投資残高をGDP比で5%程度に倍増する目標を掲げているが、平成19年末の残高(速報値)は15.4兆円(GDP比3.0%)となり、前年に比べ2.6兆円増(GDP比0.5ポイント増)と過去2番目に大きな伸びを見せている。

 また、外為法の下では、過去3年間で約760件の事前届出がなされているが、本件以外の届出は全て法令で定められた審査期間である30日以内で投資が認められていること、そのうち約95%は2週間以内で投資が認められていることは強調しておきたい。

 今後も、対日直接投資促進に向けた日本政府の方針は、経済財政諮問会議や本年1月から新たに立ち上がった対日投資有識者会議などでも積極的な議論が行われているところであり、財務大臣及び経済産業大臣としても、その促進に向けて努力していく所存である。(以下略)

 →財務省・報道発表(4月16日)より引用


 談話は、TCIに対する中止勧告の正当性を説明するものだ。ただし後半では、海外から日本への対内直接投資は引き続き重要であり、対日直接投資促進に向けて努力していくと書いてある。これは今回の件によって、海外の投資家や企業が日本離れし、ジャパンパッシング(passing)が進むことを懸念する声に応えるためのものだろう。2006年3月、日本政府は対日直接投資残高について、2010年までにGDP比5%程度へ倍増する目標を掲げたが、2007年末残高ではGDP比3.0%となり、前年に比べても0.5%増と堅調に伸びているとアピールしている。

他の主要国に比べ、非常に低い日本の対内直接投資

 さて、この対GDP比3%や5%という数字はどれぐらいの規模なのだろうか。経済産業省では「対日直接投資の促進」というWebページを設けており、その中で海外主要国における対内直接投資の対GDP比のデータ(IMF発表)を公表している。それによると、2005年時点の数字は以下の通りだ。

国名 対日直接投資の対GDP比
日本 2.4%
米国 22.5%
英国 40.9%
ドイツ 25.0%
フランス 47.4%

 国によって経済環境や産業構造が異なるので、この数字だけを取り上げて議論をするのは多少乱暴ではあるが、日本の2.4%という数字は非常に低いことが分かる。ここからうかがえるのは、海外の投資家や企業にとって、日本が直接投資をしにくい国であるということだ。「対GDP比で5.0%に倍増させる」という目標を単独で聞くと大きなことのように思えるが、海外主要国から見れば、5%になったところで「投資をしにくい国」であることに変わりはない。日本政府はあくまで、日本基準において“よりオープンな市場を目指す”と言っているだけなのである。

もともと投資先として期待されていない日本

 今後、海外からのお金が逃げていくと懸念する声もあるが、残念ながら対内直接投資の現状を見る限り、もともと海外は日本に投資先として何も期待していないわけで、今回のTCIの件において、海外から大ブーイングを浴びることはまずないはずだ。「またか」と言ってもらえればまだいい方で、それこそこの出来事そのものがパッシングされてしまう可能性もある。

 もし、英国のように海外からの対内直接投資がGDPに占める割合が半分弱にまでなっている国で、外資規制なるものが導入されて海外マネーの流入が減ったとすれば、国の経済状態に大きなダメージとなりうる。しかし日本の場合は、対内直接投資がそもそも対GDPで3.0%しかないのだから、多少乱暴に言えばこれが0%になったところであまり変わらない。財務大臣、経済産業大臣の談話の要点は「みなさん日本に期待しすぎですよ。だって失うものはないんですから」と読み替えることもできてしまう。

 電源開発が株式公開したのは2004年のことだ。株式相場がやっと上向きになってきた頃で、当時は外国人投資家の日本市場参入は大いに歓迎された。電源開発の株式もその多くが外国人投資家によって保有されており、彼らの買いなしで民営化は達成できなかったはずである。

 日本政府は本気で対内直接投資を増やしたいと考えているのだろうか。状況次第で外国人投資家との付き合い方をコロコロと変えてしまうと、日本の株式市場全体が信用性を失うことになる。

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