財務諸表から企業を理解する――「P/L」「B/S」って何?経営いろは(第2回)(2/2 ページ)

» 2008年04月17日 08時49分 公開
[GLOBIS.JP]
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キャッシュ・フロー計算書(CF /L:Cash Flow Statement)

 続いての天野さんの疑問は「資金の動きはどうだったか」という点でしょう。企業活動は将来の布石として投資を行い、過去投資した成果を受け取ることの繰り返しといえます。そうした企業活動は資金(キャッシュ)の動きを通して観察できます。企業活動は本業の活動を表す営業活動、将来の布石を表す投資活動、資金の過不足を調整する財務活動から成立ちます。これらの合計が、企業全体のキャッシュ・フローの増減分になり、同時に貸借対照表の「現金および預金」の増減分に相当します。キャッシュ・フロー計算書はこの3つの企業活動別に資金の収支を表した財務諸表です(図2)。

 天野さんはまず3つの活動すべて合せ、資金がいくら増えたかを知ろうとします。次に知りたいのは、3つの活動の構成です。一般に企業は将来の布石を打ちつづけるため、投資活動によるキャッシュ・フローはマイナスですが、過去の投資が軌道に乗ってくると、営業活動によるキャッシュ・フローがプラスになり、両者の過不足分は財務活動によるキャッシュ・フローで調整されるというパターンが多く見られます。しかし、まだ立ち上がったばかりの企業では投資活動、営業活動によるキャッシュ・フローともにマイナスであることもあります。天野さんはA社の発展段階、ライバル他社との比較を通して納得できるキャッシュ・フロー構成になっているかをまず確認することになります。

 そして、活動ごとにキャッシュ・フローを見て行きます。営業活動によるキャッシュ・フローでは本業で獲得したキャッシュの主要な源泉は何かをつかみます。投資活動では発展段階に応じて必要な投資を行っているか、本業と関係の薄い納得できない投資を行っていないか、財務活動では必要額以上に資金調達を増やしていないだろうかなどを把握します。

 ところで、損益計算書で儲けが分かるのに、なぜキャッシュ・フローを見るのでしょうか。実は、損益計算書では、主に「この期間の収益、費用はどれだけか?」を求めるために、さまざまな前提を置いて金額を出しています。そして前提の置き方によって収益や費用の金額が違い、利益額が大きく変わってきます。しかし、資金の動きは前提の置き方に左右されない実態を示しています。損益計算書上は当期純利益が大きな金額でも、実は営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスという場合もありえるのです。

 なお、今回は財務諸表について、主に株主の視点から説明してきました。しかし、財務諸表が提供する情報はこれだけではありません(例えばここでは、財務諸表の構成要素の一つ「株主資本等変動計算書(S /S)」についての解説は、やや高度に過ぎるので割愛しています)。例えば債権者、取引先、社員など、見る人によって会計報告書を通じて得たいと考える「答え」は異なり、従い、重点的に見るところも変わってきます。経営者の森田さんの立場からすれば、こうした多様な関係者の持つ疑問に対する「答え」を用意しておく責任があります。「今までどうなっているのか」「なぜ、そうなっているのか」と問われたら実態や理由を、「今後、どうするのか」と問われたら、どこをいつまでにどうするのか、具体的な打ち手を説明できなくてはなりません。

 今回、触れられなかった点や財務諸表の詳細については、財務会計や財務諸表論の書籍やビジネススクールのクラス受講などで補っていただければと思います。その際には、「誰の視点から読むか」(今回で言えば株主)という立場を明らかにし、さまざまな視点から数字と対峙するといいでしょう。それにより、個々の項目の意味をより具体的に感じ取り、理解することができるはずです。

※※本記事は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年3月3日号に掲載されたものを、2006年5月の新会社法施行を踏まえ、加筆修正のうえ再掲したものです。

グロービス・オーガニゼーション・ラーニング(Globis Ogranizational Learning)

グロービス・グループの組織開発・人材育成部門。年間約250社に及ぶ顧客企業の人材育成を通じ、組織の変化適応力の向上と持続的成長をサポートしている。自身が蓄積した人材育成の経験に加え、グロービス経営大学院や経営教育研究所、ベンチャーキャピタルなどグループの諸機能をフルに生かしてリアルなビジネスの知見を集約。これらによって質の高いプロフェッショナルサービスを提供するとともに、顧客企業の悩みに真摯に添う姿勢を信条とし、共に課題解決に取り組む存在であることを目指している。


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