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» 2008年04月14日 17時29分 UPDATE

ロサンゼルスMBA留学日記:ゲームの武器に課金されてたまるか――抗議サイトがEAを動かした?

「一部のアイテムが欲しければ、追加料金を下さい」――Electronic Artsが始めたこの仕組みに、一部のユーザーが猛反発している。企業側は売上増を狙うが、その背景には開発費の高騰などゲーム業界が抱える構造的な問題があるようだ。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 ゲーム内の特定アイテムに、個別に課金する――。企業にしてみればなかなかのアイデアだが、ユーザーからすれば受け入れられる話ではなかったようだ。

 Electronic Arts(EA)から発売されるゲーム「Battlefield: Bad Company(バトルフィールド: バッドカンパニー)」をめぐって、一部ゲームユーザーとEAの間でちょっとした綱引きが展開されている。きっかけはBattlefield: Bad Companyの武器に、追加料金が必要な「有料アイテム」構想が明らかにされたこと。「お金を払ってでも、より強力なアイテムを手にしたい」というコアゲーマーの所有欲を満たし、かつ企業側も“副収入”を得るこの仕組み。発想としては良かったようにも思えるが、一部ゲームユーザーから猛反発を受けた。ついにはボイコット運動にも発展したというから、穏やかではない。

 運動が展開されているWebサイトでは、運動主導者たちの主張を読むことができる。「おそらくこのゲームは買わない。なぜかって? EAが60ドル払ったゲーマーたちに、ゲーム内武器を追加で買わせてさらに課金しようというクソッタレなことをしているからだ。(中略)Battlefield: Bad Companyは非常にすばらしいゲームみたいだ。(中略)ゲームのファンたちを責めるつもりはない。彼らを食い物にするEAを批判しているんだ」(Webサイト中の文章の抄訳)

 WebサイトではEAのアイデアを皮肉って、「ヘリコプター、2ドル」「帽子、2ドル」などアイテムに値段を付けた画像も掲載している。YouTubeにもパロディ動画を掲載するなど、さまざまな手段で抗議活動を展開しているようだ。EAもこの動きを見逃せなかったようで、ゲームニュースサイト「IGN.com」のインタビューに答えて、関係者が方針変更をうかがわせるコメントを発表している。これを受けてsarcasticgamer.comには、4月9日に勝利宣言が掲載された(関連記事)。まだ事態は流動的だが、一連の流れはゲーム業界の今後を考える上でも非常に興味深い。

新たなビジネスモデルを模索するゲーム業界

 今回の騒動の背景には、ゲーム業界が新たなビジネスモデルを模索しているという事情がある。業界関係者に聞いてみても、収入を増やすために「ゲーム内広告」「月額課金」など、さまざまなアイデアが検討されている状況だという。

 そもそも、ゲームプラットフォームの進化に伴い開発費が高騰しているのが原因だ。単純なソフトウェア売り切りのビジネスモデルでは、大赤字になる可能性がある。もはや数千万円の開発費で、数千万円の売上げを目指す、という状況は過去のものとなり、数億円、タイトルによっては数十億円の開発費を投じて、それを上回る売上げを目指すというビジネスになってきている。

 ゲーム内アイテムに有料課金が可能なら、これは新たなビジネスモデルとして、収入増が見込めそうだ。ここで、経済学の理論に置き換えて考えてみよう。

 経済学の世界では、ユーザーは商品にそれぞれ異なる価値を見出すとされている。あるゲームに対し、9000円の価値を感じるAというユーザーもいれば、4000円の価値しか感じないBという人間もいる。6000円の価格を付ければAは買うが、Bは買わない。4000円の価格を付ければAもBも買うので、売上は8000円となる。ここで「ユーザーごとに異なる価格を設定できる」としたらどうなるか。Aには9000円を請求し、Bには4000円を請求する。これができれば、売上が1万3000円に最適化されることは間違いない。

 有料アイテムの導入というのは、上記の考え方に近いところがある。コアユーザーは60ドル払ってソフトを買い、追加アイテムを買うことで合計100ドル消費する。一方でライトユーザーは、単純にソフトだけ買って追加アイテムは買わない。ユーザーごとに、ゲームに対する出費(=ユーザーがゲームに見出す価値)が異なるわけだ。

 既にMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game、マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)などの世界では、基本料金を無料にしてアイテム課金をメインの収入源にしているゲームも存在する。これなどはユーザーごとの出費額が完全にばらつくモデルだ。EAのモデルはもう少しソフトウェア売り切りの世界に近く、「入場料(=ソフトウェア)が6000円で、中の乗り物(=アイテム)は個別支払い」というテーマパークの課金モデルに近い、といえるだろうか。入場料をもう少し安くしたほうがいいとか、あらゆる乗り物の「乗り放題チケット」を用意したらどうだとか、プライシング戦略としてはいろいろなものが考えられる(関連記事)

 とはいえ現実問題として、ゲーム料金とテーマパークの料金を同一視することはできないという問題もある。筆者としても、仮に「はぐれメタルの剣を装備するには200円必要です」とか「アルテマの魔法を唱えるには1回10円です」となれば、「オイちょっと待て、なんだそれは」と言いたくもなる。

 EAとすれば「まずはユーザーの反応を見たい」という思いはあったに違いない。すべてのアイテムに課金システムを導入するのではなく、「有料アイテムは5つ限定」という当初の控えめな姿勢がそれを物語っている。だが、一部ユーザーはこれに対し、積極的に“No”を突き付けた。同時にネットユーザーが団結し、抗議活動の輪を広げていく強さを示した。これがユーザーの“総意”であるとは断言できないが、一部に根強い反対意見があることを確認できる、いい機会だったといえる。

 今回のようなアイテム課金にしても、ゲーム内広告にしても(関連記事)、業界としてはまだまだ手探りの部分がある。企業の思惑とユーザーの意見がぶつかった後、どのような着地点が見つかるのか。引き続き注視したい。

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